約 1,076,742 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2460.html
前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 康一が部屋に戻ると、まだご主人様(仮)は毛布を頭から被って丸まっていた。 何時に起こせ、とも言われていないのだが(というより時間が分からないが)、康一はとりあえずルイズを起こすことにした。 「ねぇ、君。起きなよ。」 毛布を揺さぶる。 だが、ルイズは「違うもん・・・食べないもん・・・使い魔食べないもん・・・」だのと寝言をつぶやきながら起きようとはしない。 「もう、しょうがないなぁ。ほら、いい天気だし、起きろってば!」 康一は無理矢理、がばっと毛布を剥ぎ取った。 息を呑んだ。 長い桃色の髪の毛が、ゆるやかなウェーブを描いてシーツに広がり、太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。 その中で胎児のような格好で眠る少女は、急に毛布が奪われたせいだろう。雪のように白くて細い手足を更に縮こめて眉根を寄せた。 康一は何か見てはいけないものを見てしまった気がしてあわてて視線を逸らした。 「あ、朝だよ!起きなくていいの?」 康一が明後日を向いたまま声をかけると、それまで丸まっていた少女が、シーツの上でゆっくり伸びをして、起き上がった。 まだ寝ぼけたようにぼんやりとした表情で、あんた誰?と聞いた。 康一は呆れた。 「昨日君に無理矢理召還された広瀬康一だよ。もう忘れたの?」 ルイズはあー、そういえばそうだったわねー。とつぶやいて。それからようやく昨日の夜のことに思い至ったのだろう。 「あ、あのねー。昨日のことは・・・」 「分かってるって。でも、ぼくが何も持ってないことはわかっただろ?」 ルイズはまだ言い足りないようだったが、まぁいいわと自分を納得させたようだった。 そして自分の格好に気づく。 「わたし、あのまま寝ちゃったんだわ・・・」 ルイズは康一が気絶した後、どうしようどうしようと一通りおろおろしたあと、もうどうにでもなれ!とそのままベッドに飛び込んだのだった。 康一に毛布をかけることにまで気が回ったのはまさしく奇跡といえる。 ルイズはもう一度大きく伸びをして、それからブラウスのボタンに手をかけた。 ボタンをはずしていくほど、その奥の下着が垣間見えて行き、康一は悲鳴をあげた。 「ちょ、ちょっと!何でいきなり脱ぐんだよ!」 ルイズは、はぁ?と怪訝そうに言った。 「だって、昨日着たものをそのまま着てたら気持ち悪いじゃない。」 「ちがうよ!ぼくが見てないところで着替えてくれって言ってるんだ!」 「なんで?」 「なんで?って・・・乙女の恥じらい・・・とか。」 康一はぼそぼそとつぶやいた。 「あのねー。もう一回断っておくけど、あんたはわたしの使い魔なのよ?使い魔に見られたくらいでいちいち恥ずかしがってられると思ってんの?」 ルイズはブラウスを脱ぎ捨てたところで腰に手を当てた。 本当に恥ずかしくないらしい。 昨日あれだけあわてたのも、単に体面の問題だったようだ。 もう本当に男として見られてないというか、犬猫の扱いなのね・・・。 康一は改めてがっくりときた。 ルイズは肩を落とした康一をしばらく見ていたが、気にすることなく今度はスカートを脱ぎ始めた。 康一はあわてて背中を向けた。 そこにルイズから声がかかる。 「下着。」 「は?」 「気が利かないわねー。取ってっていってるの。」 「し、下着くらい自分で取ってくれッ!」 「あんた使い魔なんでしょー。それくらいやるのは当然じゃない。」 うぐっ!康一はさらに言い返そうとして言葉を飲み込んだ。 康一はこの世界の『使い魔』について何も知らない。 確かに自分は使い魔になることを承諾した。しかしまさかこんなことまでさせられるとは! 「(お姉ちゃんの下着だと思おう。お姉ちゃんの・・・)」 康一はいろいろと後悔したが、とりあえず言うとおりにすることにした。 背を向けた後ろで、するすると下着を外す音がする。 そりゃー、そうだ。新しい下着を着るには古い下着を脱がなくちゃいけないですよねー! 「(お姉ちゃんが着替えてるだけだ。お姉ちゃんが着替えてるだけ・・・)」 康一は心の中で繰り返して乗り切った。 「ブラウスとスカート。」 もう言い返す気力もない。同じくクローゼットをあさり、下着姿のルイズを見ないようにして手渡した。 「なにしてんの。あんたが着せるのよ。」 「な、なんだってー!?」 いい加減に我慢の限界だ! そりゃあ女の子の着替えに立ち会えてちょっと嬉しいのはあるが、この扱いはあんまりだ! 康一はルイズが下着姿なのにも構わず向き直った。 「平民の召使いがいるときは、貴族は自分で服なんて着ないの。知らないの?」 「ふざけるなっ!それくらい自分でやってくれ!ぼくをなんだと思ってるんだ!」 「使い魔でしょ?衣食住を世話するかわりに使い魔をやるんだったわよねー?」 ルイズは椅子に腰掛け、ふふん♪と足を組んだ。 「そ、それは・・・でもいくらなんでも・・・!」 「あんたを誰が養うと思ってんの?さぁ、早くしなさいってば。」 もうぐうの音もでない。 とほほ、な康一は出来るだけルイズのほうを見ないようにしてプリーツスカートを手に取った。 「さて・・・と。」 すっかり着替え終わったルイズは姿見で身だしなみを整えている。 一方の康一はすっかり尊厳を踏みにじられてげっそりとしていた。 「使い魔がこんな大変なものだなんて思わなかったよ・・・」 「何言ってるの。まだ、なーんにもしてないじゃない!」 ルイズは腰に手を当てた。 康一は今のうちに使い魔は何をすればいいのかを聞いておくことにした。 「他にぼくは何をすればいいわけ?」 着替えを手伝ったり雑用をしたりするだけなら、それはただの召使いな気がする。 「そうねぇ・・・」 ルイズはアゴに人差し指をあてて首をかしげた。 「まず、使い魔は主人の目となり、耳となる能力を与えられるわ。」 「はぁ」 スタンドとスタンド使いのようなものだろうか。 康一もACT1の視界を借りることで、半径50m程度の偵察を行ったりすることがある。 「でも、無理ね。わたしあんたの見てるものとか聞いてるものがわかんないもん!」 それは正直助かるなぁ。と康一はほっとした。 そんなことになったらプライバシーもなにもあったもんじゃない。 「それから、使い魔は主人の望むものを見つけてくるのよ。例えば、秘薬とか薬草とか、鉱石とかね。」 でも・・・とルイズは続けた。 「あんたには無理そうね。頭そんなに良さそうにはみえないし。」 康一はムッとしたが、実際学校の成績がよかったわけでもなかったし、秘薬だのなんだのというのもさっぱりだったので何も言わなかった。 「そしてこれが一番大事なんだけど・・・使い魔は主人を守る存在なのよ!あんた、昨日ゴーレム・・・・えっと、『スタンド』だったっけ?それを出してたでしょ?ひょっとして強いの?その『スタンド』」 康一はうーん、と唸った。 康一は自分のスタンドを信頼してはいたが、強いか?と聞かれると返答に困った。 康一は今まで数々の戦いを経験してはいるが、実際1対1で戦って勝ったことはあまりない。 強敵との戦いではいつも誰かのサポート役だった。 『エコーズ(ACT1、2、3)』を他のスタンドと比べると、時間を止められる承太郎さんの『スタープラチナ』は最強すぎるので除外するとしても、 仗助くんの『クレイジー・D』のようなパワーとスピードもないし、億泰くんの『ザ・ハンド』のような一撃必殺の能力もない。 露伴先生の『ヘブンズ・ドアー』には何度戦っても勝てる気がしないし、あの殺人鬼吉良吉影の『キラークイーン』には相手にもならず一度殺されかけている。 そうして考えて行くと、真正面から戦ったら自分が知るスタンド使いのほとんどに、自分は勝てないだろうなぁ。と思う。 自分だけで勝てたのは由花子の『ラブ・デラックス』と玉美の『錠前』くらいだが、『ラブ・デラックス』ともう一回戦ったら手も足も出ない気がするし、玉美にいたっては、戦闘力では一般人と変わらない(玉美は康一よりもさらにチビだし!)。 康一が沈黙すると、ルイズは溜息をついた。 「まぁ・・・そもそもあんたにそんなのを求めるのがおかしいわよね・・・」 ルイズはまだなにやら考え込んでいる康一を眺めた。 第一印象は『チビ』だった。同年代の女の子の中でもかなり小さいほうに入るルイズ(153サント)と目線がほとんど同じなのだ。 多分実際の身長はルイズよりも少し高いとは思うのだが、そのキャラクターのせいなのか、自分より小さく感じる時すらある。 力も弱かったし、何か一芸に飛びぬけているようにも見えない。 そして何よりも、文句ばっかり言うくせに、頼りない性格。当てになるはずがない。 「わかったでしょ?あんたができそうなのって、掃除や洗濯みたいな雑用くらいしかないのよ。だから文句を言わずに働いてよね!」 でも君が思ってるよりは役に立つと思うんだけどなぁ・・・。康一は思ったが、たぶんそれを言い出しても余計に面倒なことになるだろうと思ったので黙っておくことにした。 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1026.html
「五つの力を司るペンタゴン 我の運命(さだめ)に従いし――」 「使い魔を召喚せよ━━」 その言葉を紡いだと同時に メメタァ!! よく解らない音と共に――━━ 爆発が起こった。 第1話●ロの使い魔 (狭い…暗い…ここ…どこ?) 必死に記憶を反芻するも思い当たる節もない (確か…病院に…居たはず…) 息がし辛い口をガムテープで塞がれて居る、体もロープで拘束されてるみたいだ ━理解不能理解不能理解不能理解不能━ などとちょっとした電波を受信していると浮遊感が体を包み込み―― 彼はこの世界から別れを告げた (お願い、皆が私のことゼロなんて言えなくなるようなすっっっごい使い魔よ来なさい!むしろ来て下さい!) 爆発を起こした張本人であるルイryは自らが起こした爆発に内心ビビりながら祈っていた そして土煙が晴れてくると次第に長方形の何かが姿を現し始めた (やったわ!とりあえず召喚には成功したんだわ!第三部完っ!ってとこかしら) しかしその喜びは束の間であった、何故なら姿を現したのは ━━箱? いや取っ手もついてるしカバンかしら、ああ、ちょうど良かった新しいカバンが欲しかったのよ、ウケウコケウケコウケッ ル(ryは現実から逃げ出した、しかし回りこまれた 周囲の生徒からは 「流石ゼロっ!俺達に(ry」 「そこにしびれ(ry」 とはやし立てられている、(ryは屈辱に肩を震わせて今にも泣きそうな表情へと変化している その様子を伺っていた褐色の胸がグンバツな女キュルケは (泣きそうな顔もそそるわねぇ、ルイズカワイイよルイズ――ってアレ??) (あの箱微かに動いてる?それに呻き声みたいなのも聞こえるわ) 「ねぇルイズ」 「なによ!!あんたも私を馬鹿にするんでしょ?笑いたければ笑いなさいよ!!」 キュルケは苦笑しながら答える 「アナタが召喚した箱なんだけど…中に生物が入ってるみたいよ?」 その言葉にルイズは箱を見やる、確かに呻き声や動きが見られる。 それを見てルイズの表情が緩みかけるが思いとどまった (駄目よ過度の期待をしては駄目、どうせ裏切られるんだから) などとネガティヴまっしぐらになってると乳女が 「早く中を開けて御覧なさいよ、ま、どうせ死の呪文を唱える舌の長いモンスターが出てくるだけでしょうけどw」 キュルケのその言葉にルイズは顔を真っ赤にしながら反論しつつも箱に近づく (ほほほ、本当に皿木を唱えるああああ、あいつがでたらどどどうしよう) 真っ赤にしていた顔を真っ青にしながらもルイズは意を決し箱を開ける―― 「――え?」 間抜けな声が出てしまった それもその筈モンスターが出てくるとばっかり思っていたのに箱の中には奇妙な恰好をした平民の少年がおり、しかも口を塞がれロープで体の自由を奪われてたのだ、少年の傍らに本があったがこれまた見た事の無い字であった。 ルryは混乱している (どういう事よ、くそっくそっ、舐めやがって!!) 周囲の奴らは 「ゼロが平民をしやがった!」 「しかも縛ってやがる」 「俺も縛られてルイズに詰られたい」 などとルイズを馬鹿に?しだしたのだ 「ちちち、違うわよ!ちょっと失敗しちゃってこの子が召喚されちゃっただけよ、ミスタ・コルベール!再召喚を要求します!」 「だが断る!再召喚など許可しなぃぃぃぃぃ!!」 「ですが平民を使い魔になんて聞いた事ありません!!」 だがルイズも食い下がる、平民を使い魔にするなんて良い笑いものだ、それだけは避けたい。 ルイズの必死の講義にコルベールは 「では留年という事で良いかな?」 と頭を輝かせながら言う、ルイズは留年という単語を聞き (留年なんて事になったらヴァリエール家の恥!それこそ家を追い出されてしまうわ、それだけはイヤ!) ルイズは観念し、少年に近づき━━ 思いっきり嫌そうな顔をした (なんなのよ!?平民でもせめて強そうな平民ならまだしもこんな子供なんて、しかもなによその前髪?ワカメなの?) (しかも私みたいな絶世の美少女が近づいっていってあげてるのになんで脅えてるのよ!) 見ると平民の少年は体をぶるぶると震わせながら泣いている (ああ!!もう!さっさと終わらせてしまおう、後の事は今考えない!) ルイズは自棄になりコントラクト・サーヴァントを行う 「感謝しなさいよ、平民のあんたが貴族で美人で素晴らしい私にこんなことしてもらえるなんて、二度とないんだからねっ!!」 少年は一層脅えだした、(俺のそばに近寄るなぁぁぁぁ)と聞こえた気がしたが無視する事にした。 「五つの力を司るペンタゴン、此の者に祝福を与え━━我の使い魔となせ━━」 ズキュゥゥゥゥン 「……あれ?なんで?失敗…したの?」 (そ、そんな、失敗したっていうの?人生オワタ\(^o^)/) ルイズが失望感に苛まれていると、禿ベールが近づいて来る 「あー、ミスヴァリエール?彼の猿ぐつわをとらないと、直接唇が触れないと契約は行えないよ?」 その言葉にルイズは希望を得るが同時にファーストキスを平民にあげる事に失望を感じた (ああっ!!もう!“覚悟”を決めるのよ私!) そして平民の子に対し出来るだけ威厳を損ねないような口調で話しかける、今更威厳もへったくれもないようなものだが、彼女のプライドがそうさせるようだ。 「今からこの猿ぐつわをとるけども泣き叫んだりしないって誓えるかしら?」 平民の少年は首を激しく縦に振る、どうやら苦しいようで顔色も心なしか悪く見える 「よぉーし良い子ね、安心しなさいリラックスよリラックス」 平民に言い聞かせながら猿ぐつわを取る その時衝撃の出来事が!! 「オゴェェェェェーーッ、ゲロゲロ」 平民が勢いよくゲ●を吐き出したのである、その勢いたるや圧倒的破壊力の小宇宙と言わんばかりであった 「何をするだァァァ!!許さんっ!!」 メメタァ! その後無事(?)にコントラクト・サーヴァントを終えルイズが少年に問う 「そういえば名前を聞いてなかったわね、私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ヴァリエールよ!あんた名前は?」 使い魔のルーンを刻まれる際の痛みで泣き転んでいた少年は少し落ち着きをルイズの問いに答える 「ぼ…僕…僕の名前……ボインゴです…はい」
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/100.html
契約! クールでタフな使い魔! その② 承太郎が左手を押さえてうめいていると、コルベールがやって来て刻まれたルーンを見た。 「ふむ……珍しい使い魔のルーンだな。さてと、じゃあみんな教室に戻るぞ」 そう言って彼は宙に浮く。その光景に承太郎は息を呑んだ。 いつぞやのポルナレフのようにスタンドで身体を持ち上げている訳ではない。 本当に宙に浮いているのだ、恐らく魔法か何かで。 そして他の面々も宙に浮いて城のような建物に飛んでいった。 「ルイズ、お前は歩いてこいよ!」 「あいつ『フライ』はおろか、『レビテーション』さえまともにできないんだぜ」 フライ。どうやらそれが空を飛ぶ魔法のようだった。 そしてその魔法が使えないらしいルイズと二人きりで承太郎は残される。 「……あんた、何なのよ!」 「てめーこそ何だ? ここはどこだ? お前達は何者だ? 質問に答えな」 「ったく。どこの田舎から来たのか知らないけど、説明して上げる。 ここはかの有名なトリステイン魔法学院よ!」 「…………」 魔法学院。本当にこいつ等は魔法使いらしい。ファンタジーの世界らしい。 それでも念のため、ここが地球であるという願いを込めて承太郎は問う。 「アメリカか日本って国は知らないか?」 「聞いた事ないわねそんな国」 仮にも人を平民呼ばわりする文化圏の連中が、世界一有名なアメリカを知らぬはずがない。 つまりここは地球ではない可能性が極めて高い。 「じゃあここは?」 「トリステインよ」 魔法学院と同じ名前……すなわち……。 承太郎の推理が正しければ! ここ! トリステイン魔法学院はッ! ほぼ間違いなくッ! 国立だッ!! ド―――――z______ン もっともこの学院が私立だろうと国立だろうと知ったこっちゃない話だ。 重要なのは。 「つまりこういう訳か? お前達は魔法使いだ……と」 「メイジよ」 「…………」 どうやら呼び方にこだわりがあるらしい。 とりあえず当面はこのルイズからこの世界の基礎知識を学ぶ必要がありそうだ。 他に今のうちに訊いておく事はあるだろうか? 承太郎はしばし考え――。 「てめー、何で俺にキスしやがった」 ルイズが真っ赤になる。そりゃもう赤い。マジシャンズレッドより赤い。 「あああ、あれは使い魔と契約するためのもので……」 「この左手の文字。使い魔のルーンとか言ってたな」 「そうよ。それこそあんたがこの私、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔になった証よ。 つまり今日から私はあんたのご主人様よ、覚えておきなさい!」 「…………やれやれだぜ」 こうして校舎まで戻ったルイズは、承太郎を入口に残して教室へと入っていった。 そして授業が終わってルイズが出てくるまで、承太郎は考え事をしていた。 空条承太郎。十七歳。 母ホリィの命を救うため、百年の時を経て復活した邪悪の化身DIOを倒し、 仲間を喪いながらも日本へ帰ってきて数ヶ月……。 DIOとの戦いで受けた傷もすっかり癒え、 祖父母のジョセフとスージーQはアメリカに帰り、 少し真面目に高校生活を送るようになっていた。 そんなある日、彼の前に突然光る鏡のようなものが現れた。 スタンド攻撃かと思った。 戦闘経験の豊富な承太郎がその光に警戒しない訳がない。 だが……その時の承太郎は電車に乗っていたのだ。 座席は埋まり、車両内には何人かの乗客が吊革を手に立っていた。 承太郎もその中の一人だ。 そして、突然目の前に光が現れて、避けようと思ったが、みっつの要因により失敗した。 ひとつ、車両内に逃げ場がほとんど無かった。横には乗客が座っているし、上は天井だ。 ふたつ、承太郎は物思いにふけっていたため反応が遅れた。 みっつ、光の鏡は電車ごと移動するような事はなく、承太郎は電車の速度で鏡に突っ込んだ。 そして気がついたら、ここ、トリステイン魔法学院にいた。 「……やれやれだぜ」 日が暮れる。腕時計を見る。 本来なら今頃、適当な花屋で花を買って、花京院の墓に添え、帰りの電車に乗っている時間だ。 結局墓参りどころか、花さえ買えずこんな所に来てしまうとは。 (こういう訳の解らないトラブルはポルナレフの役目だぜ) 何気に酷い事を考える承太郎だったが正しい見解でもあった。 そして授業を終えたルイズに連れられ、承太郎は学生寮のルイズの部屋に通される。 十二畳ほどの広さの部屋には、高級そうなアンティークが並んでいた。 そこで承太郎はルイズが夜食にと持ってきたパンを食べながら、 開けた窓に腰かけて静かに夜空を眺めている。 「ねえジョー……えっと、名前なんだっけ?」 「承太郎だ」 「ジョータロー。あんたの話、本当なの?」 「…………」 無言。肯定なのか否定なのかも解らない。ルイズはちょっと苛立った。 「だって、信じられない。別の世界って何よ? そんなもの本当にあるの?」 「さあな……。少なくともここは、俺の知る世界じゃねぇ。あの月が証拠だ」 「月がひとつしかない世界なんて、聞いた事がないわ。 ねえ、やっぱり嘘ついてるんでしょう? 平民が意地張ってどうすんのよ」 「俺を平民呼ばわりするんじゃねえ!」 一喝すると、ルイズはすぐ驚いて黙る。それだけ承太郎の迫力がすごい。 だがプライドが非常に高いルイズは負けっぱなしではいない。 すぐに何か言い返そうとして――承太郎が懐から何かを取り出すのを見た。 「何よ、さっきパン上げたでしょ? 食べ物を持ってるなら最初からそれ食べなさいよ」 承太郎が取り出したそれを口に運ぶのを見てルイズは意地の悪い口調で言った。 承太郎は細長い棒状の食べ物を咥えたまま、ルイズを睨む。 実は普通にルイズに視線を向けただけだが、睨まれたとルイズは思った。 「てめー……タバコを知らねーのか?」 「は? タバコ? あんたの世界の食べ物?」 「……やれやれだぜ」 そう呟くと、承太郎はタバコを箱に戻し、懐にしまった。 「食べないの?」 「食べ物じゃねえ」 この世界にタバコが無いとすると、今持ってる一箱を吸い終わったら補充不能。 それは喫煙家の承太郎にとってかなりの苦痛だった。 「ルイズ、てめーの説明でこの世界の事はだいたい解った。 ハルケギニアという世界だという事も、貴族……メイジと平民の違いも。 だが一番重要な事をまだ説明してもらってねーぜ……それは……」 「何よ?」 「俺が元の世界に帰る方法はあるのか?」 「無理よ」 曰く、異なる世界をつなぐ魔法などない。 サモン・サーヴァントは元々この世界の生き物を使い魔として召喚する魔法。 何で別の世界の平民を召喚してしまったのかなんて全然ちっとも完璧に解らない。 だいたい別の世界なんて本当にあるのかルイズは信じきっていないようだ。 何か証拠を見せろ、と言われたが承太郎の持ち物は財布とタバコ程度。 後は電車の切符くらいだ。 ルイズ相手にいくら話をしても無駄に思えてきた承太郎は、口を閉ざしてしまう。 ルイズはというと、そんな承太郎の態度に怒りをつのらせる。 だって、平民ですよ? 使い魔が平民ですよ? 使い魔は主人の目となり耳となったりするが、そういった様子は無い。 一番の役目である『主人を守る』というのも無理。 平民がメイジやモンスターと戦える訳がない。 嫌味たっぷりにそう言ってやった時、承太郎はなぜか視線をそらした。 ルイズはそれを『図星を突かれた』と判断した。 という訳で承太郎ができる事など何もないと思い込んだルイズは命令する。 「仕方ないからあんたができそうな事をやらせて上げるわ。 洗濯。掃除。その他雑用」 「…………」 無言。肯定とも否定とも取れない。 でも文句なんて言えないだろうしルイズは勝手に肯定の意として受け取った。 「さてと、喋ってたら眠くなってきちゃったわ。おやすみ平民」 「待ちな」 ようやく、承太郎が口を開く。窓を閉めてルイズを睨みつける。 「な、何よ……もう眠いんだから、話はまた明日って事にして」 「俺の寝床が見当たらねえぜ」 ルイズは床を指差した。 「……何が言いたいのか解らねえ。ふざけているのか? この状況で」 「はい、毛布」 一枚の毛布を投げ渡され、承太郎はそれを受け取る。 直後、ルイズはブラウスのボタンを外し始めた。 「……何やってんだてめー」 「? 寝るから着替えてるのよ」 「…………」 承太郎は無言で背中を向けた。その背中に、何かが投げつけられる。 「…………」 承太郎は投げつけられた物を手に取り、無言で立ち尽くしている。 「それ、明日になったら洗濯しといて」 それはレースのついたキャミソールに白いパンティであった。 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ 承太郎は無言で振り向き、 ネグリジェに着替えたルイズにキャミソールとパンティを投げ返した。 「……これは何の真似?」 「やかましい! それくらいてめーでやりやがれ!」 「な、何よ! あんた平民でしょ! 私の使い魔でしょ!?」 「俺はてめーの使い魔になるつもりはねえ」 「フーン? でも私の言う事聞かないと、衣食住誰が面倒見るの?」 「……やれやれだぜ」 承太郎はそう言うと、毛布に包まって床に寝転がった。 それを見たルイズは満足気に微笑み、やわらかなベッドで眠った。 承太郎が「うっとおしいから今日はもう寝よう、洗濯はしねえ」と考えていて、 使い魔になる気ゼロな事に微塵も気づかずに。 戻る 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2485.html
前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 服や小物、化粧品に下着etcetc。とかく女性の買い物は長いものである。 あの後、キュルケがタバサのために服や化粧品を選んでやったり、下着を試着したキュルケが「ねぇ、これってぐっとくるかしら?」と康一に見せようとしてひと悶着あったりなどするうちに、康一が抱える荷物は山のようになっていった。 気軽に「ぼくが持ちますよー」なんて言うんじゃなかった・・・ 「ところで、あんたには他に欲しいものはないの?」 自分たちの買い物を女性陣が一通り済ませた後、ルイズがふと思いついたように聞いた。 山盛りの荷物を抱えたまま、康一はうーん・・・と悩んだ。そして「気軽に買えるようなものじゃないのは分かってるんだけど・・・」と断りを入れた。 「ぼくは・・・寝具が欲しいかなぁ~。床で寝るのはちょっとつらかったりするんだよね。」 こちらに来てから、基本的に床である。ギーシュにぼこぼこにされて唸っている間はベッドを使わせて貰っていたのだが、そういう例外を除いて基本的に犬は床らしい。 「ダーリン、床で寝させられていたの!?」 キュルケが悲鳴をあげた。溜息まじりのあきれた視線をルイズに向ける。 「ルイズ。あなたねぇ・・・」 「う、うるさいわね。あれは罰よ!罰!だいたいわたしの部屋にベッドなんてひとつしかないんだから仕方ないじゃない!」 ルイズがわたわたと手を振った。本当は今日から自分のベッドで寝させるつもりだった、などと口が裂けても言えない。 キュルケが感極まったように康一を抱きしめた。 「かわいそうなダーリン!こんな血も涙もない女のところに居る必要なんかないわ。今夜からあたしのベッドで一緒に寝ましょう?」 身長の高いキュルケに抱きしめられると、必然的に胸が顔の位置にくるのだった。うれしいし気持ちいいが、後ろめたいし恥ずかしい。 康一は顔を真っ赤にしてもがもがと唸った。 「あんたがそういうことするから罰を与えないといけなくなるんでしょぉ―――!」 顔を赤くしてもがく康一をルイズが引っぺがした。 かくしてルイズの部屋である。 「うわぁ!ベッドだ!まともな寝床だよぉー!」 康一はつい先ほど運び込まれた自分のベッドに飛び込んではしゃいだ。 結局あの後、康一のためにベッドなどの寝具も買っていくことになったのだ。 平民が使うベッドとしては標準的なものである。現代のベッドのようにスプリングなどがついているわけでもない。 隣にあるルイズのベッドとは大きさもやわらかさも段違いなものではあったが、暖かな寝床というだけで康一は大満足だった。 康一にはさすがに持ちきれなくなったので(康一「まさかベッドを担いで馬にのれっていうんじゃないだろうね!」)、馬車を手配して部屋まで運ばせることにしたのだ。 帰ってからベッドを設置し、食事や入浴などをすませると、もうすっかり夜も更けていた。 キュルケからの熱心なお誘いもあったのだが、康一は遠慮しておくことにした。 自分には由花子さんという恋人がいる。ばれることは間違いなくないだろうが、そこはきちんとしておきたい。 さらに言えば、キュルケに誘われて考えるそぶりを見せると、ルイズが途端に不機嫌になるからだ。 「おおげさねぇ。」 ベッドにはしゃぐ康一にルイズはあきれて見せるが、実際には複雑な気持ちだった。 『自分のベッドで寝させてあげる』という『ごほうび』をあげられなくなったからだ。 思いのほかがっかりしている自分に、ルイズは気がつかないことにした。 康一はベッドに寝転がったままで答えた。 「君も一度床で寝てみるといいよ。硬いし冷たいしで、寝られるもんじゃないんだから。」 「いやよ。そんなの。」 ルイズはベッドの上にネグリジェ姿でぺたんと座ったまま康一の左手を見た。 「それより、あんたのルーンが光ったのって、いったいなんだったのかしら。」 康一は左手の甲にあるルーンをみた。手元にあったデルフリンガーを引き寄せて構えると、淡く光りだすのが分かる。 自分の皮膚がホタルよろしく光りだすのだから、康一としては不気味である。しかしいやな感じはしない。暖かいエネルギーがあふれてくるようだ。 「やっぱり、剣をもつと光るみたいだね。それになんだか・・・体に力が沸いてくる感じがする。」 康一はデルフリンガーを鞘から抜くと、軽く振ってみた。 野球のバットを想像してもらいたい。一般人でも全力で振ると振り回されるあのバットですら、長さはだいたい80~90cm。重さは900g強である。 一方のデルフリンガーは全長150cm余りと、長剣というよりはグレートソードのカテゴリーである。重さだって少なくとも倍以上はあるのだ。 本来、筋骨隆々の大男が力任せにぶん回すのがお似合いの大剣を、剣と大して身長の変わらない小柄な康一が軽々と振るうのは、かなり異様に見える。 「普段だったらこんな重い物振ったり出来ないよ。」 「それもそうよね。あんた、鍛えてる様にも見えないし。」 そのルーンの特性かしら。とルイズは首をひねった。 「使い魔のルーンで、犬や猫が人間の言葉を理解できるようになったりする、というのは聞いたことがあるわ。でも、『武器をもったら強くなる』なんて聞いたことがないもの。」 自分の使い魔は常識はずれなことが多すぎるのだ。もうほかの使い魔を参考にすることすら馬鹿らしい。 康一は枕元にデルフリンガーを置くと仰向けになった。 「明日君が授業に出てる間、いろいろ試してみるよ。『スタンド』に影響があるかどうか調べたいしね。」 「そうね。わかったらわたしに全部報告しなさいよ?」 うん、わかったよ。と康一が目を閉じたまま言うので、ルイズも灯りを消して寝ることにする。 瞳を閉じたまま、ルイズは小さな声で呼びかけた。 「ねぇ・・・」 眠そうに康一は返事をした。 「なぁに?」 「あんたってすごく変わってるわね。」 「そうかなぁ。」 「変わってるわ。あんたみたいな使い魔みたことも聞いたこともないもの。」 「『スタンド』はともかく、ルーンのことはぼくもよくわからないよ?」 「そうね・・・」 わたしもコーイチも普通じゃない。特にコーイチは。 「もしかして、あんたってすごいやつなのかしら。」 返事はなかった。もう、すやすやと寝息が聞こえる。きっと疲れていたのだろう。 あんたがすごい使い魔だとしたら、わたしはなんで『ゼロ』なんだろう。とは口に出さなかった。 代わりに小さくつぶやいた。 「わたしもあんたに負けないようにがんばらなくちゃね。」 翌日。ルイズが授業に出かけた後、康一は二本の剣を持って学院から少しはなれた人気のない広場にやってきた。 ルイズはなんだかやる気満々で出かけていった。空回りしないといいんだけど。 「なあ相棒。こんなところで何をするつもりだい?」 デルフリンガーが尋ねた。 相棒、相棒と親しげに話しかけてくるので、康一とデルフリンガーは結構気安い仲になっていた。 「昨日光ったルーンを調べるんだよ。昨日言ってた『使い手』ってルーンのことなの?」 「そうさね。その左手のルーンが『使い手』の証だよ。」 デルフリンガーを握る。ルーンが光を放つ。体が軽くなる。 剣を軽く振ってみる。 ヒュン!と風切り音がする。 今度は思い切り振ってみた。 「おわっ!」 振りぬかれた剣に振り回され、体が泳ぐ。 転びそうになって思わずたたらを踏んだ。 「重い感じはしないんだけどなぁ。」 手の感触を確かめる。筋力は確かに強くなっている気がする。 デルフリンガーがからかう様に言う。 「相棒が軽すぎるのさね。ルーンは使い手の体重まで変えちゃくれないからな。」 「剣を振るのに体重が関係あるの?」 「そりゃああるさね。重心が体幹から遠くなると、とたんに扱いが難しくなるからね。」 康一は感心した。 人間だってこんなに詳しい人は居ない。たぶん。 「剣なのによくそんなこと知ってるなぁ。」 「まぁ6000年は生きてきたし、いろんなやつに使われてきたからね。」 「6000年!?」 現代ではイエスキリストが生まれたのが2000年前。6000年といえばそれの3倍じゃないか! 6000年という年月を自分の身に即して考えようとしたが、桁が違いすぎて実感がわかない。 「君って実は結構すごいわけ?」 「まぁね。」 デルフリンガーも心なしか得意げである。 「まぁそれは置いておいて、つまりぼくじゃ君を使いこなせないわけだよね。」 「大丈夫さね。相棒はまだ成長期だろ?これから大きくなるって。」 「ぼく、これでももう17歳。もうすぐ18になるんだよね。」 ちなみに高校の3年間で、身長はほとんど伸びていない。 「まだ若いじゃねぇか。これからまだまだ伸びるって。ところで、人間って何歳まで大きくなるんだっけか。50歳くらい?」 「50歳になるころにはぼくはもうおじさんだよね。」 「へぇ、そうだったっけか。」 この自称6000歳、いまいち常識に欠けるらしい。 しかしこのデルフリンガー。話を聞く限りすごそうな剣なのだが、もったいないことに自分には合わないのかもしれない。 「これなら、まだキュルケさんにもらったこの剣のほうがいいのかなぁ。」 もう一本の剣を手に取った。 比べてみると『シュペー卿の剣』のほうが、デルフリンガーよりは軽いようだ。長さも少し短い。ただ、格好よすぎて自分に不釣合いなのが問題だ。 「やめとけって相棒。そりゃあなまくらだよ。格好ばっかり気を使ってるが、造りがいいかげんだ。」 「ふぅん・・・」 次に『スタンド』を出してみる。 この『ルーン』はスタンドにも影響を与えるのだろうか。 「ACT3!」 康一が呼ぶと、空中に白い人型の『スタンド』が姿を現した。 「うわ!なんだいそいつは!」 デルフリンガーが驚いたように言った。 「ぼくが出した『スタンド』だよ。ぼくは『スタンド使い』だからね。」 「そいつを相棒が作ったっていうのかい?」 「まぁ、そういうことになるのかな。」 「へぇー。今度の相棒は変わってらぁ。」 表情がないのでわかりにくいが、感心しているらしい。 「6000年生きてきたのに、『スタンド』を見るのは初めてなんだね。」 「『ゴーレム』みたいだが、雰囲気は違うよな。先住でもないし。」 やはりこちらの世界に『スタンド使い』はいないのだろう。 何かヒントになることを知っていないかと思ったが、無駄骨だったらしい。 でも、めげない。まずはこのルーンが『スタンド』に影響するのか調べないとッ! 「ところでデルフ。君って頑丈なんだよね?」 シュペー卿の剣に持ちかえ、デルフリンガーを地面に置いた。 「まぁな。よっぽどのことがないと折れたりしないね。6000年も折れずにいるんだぜ?」 「それもそうだよね。それじゃ、ちょっと実験したいから感想を聞かせてくれるかな。」 「おう、まかせとけ!・・・・・・・え、実験?」 自分の頑丈さに自信はある。しかしなぜか相棒の言葉に、嫌な予感がよぎった。 「ACT3の『3FREEZE』は物体を『重く』するんだよね。だからこのルーンがあったらどれくらい『重く』なるのか知りたいんだよ。」 「んー・・・よくわかんないけど、かまわねぇよ。」 まぁたいしたことはないだろ。今までの6000年。殴ったり蹴ったりされたくらいじゃびくともしなかった。 「よーしそれじゃ・・・ACT3!この剣を重くしろ!」 「S.H.I.T!3FREEZE!」 ACT3が妙な構えの後、拳を振り上げた。 「あ、やっぱちょっとm ズン!!!! 一瞬でデルフリンガーが見えなくなった。 『デルフリンガー』-ACT3の超重力で地中深くまで沈み込んでしまい【再起不能】 なんてことに危うくなりそうだったので、康一は慌てて土を掘り下げ、デルフリンガーを回収した。 「壊れない自信はあったけど、まさか埋められるとは夢にも思わなかった!俺剣だから夢みないけど!!」 「ごめんごめん。まさかこんなに『スタンドパワー』が全開になってるとは思わなくてさぁ。」 大騒ぎするデルフリンガーに康一は頭を下げた。 「それにしても、やっぱり『スタンド』もルーンの影響を受けるみたいだなぁ。」 ACT3に調子を聞いたところ、 「最高ニ「ハイ!」ッテヤツデスネ。HELL YA!今ナラTRIPPING『キラークイーン』モ地球ノ裏側マデブッ飛バセソウデス!」 とパンチやキックをして見せていた。スラングも増えている。相当テンションがあがっているようだ。 「最高にハイってやつ、かぁ。でもなぁ・・・」 思わずため息が出る。 「なんだい相棒。うれしくないのかい?」 「うれしいけど、君みたいな馬鹿でかくて重いものを持たないといけないのはめんどうだなぁー、って。」 この馬鹿でかい剣を売り払って小さなナイフでも買おうかなぁ、というとデルフリンガーは「そりゃないぜ相棒~」と情けない声をあげた。 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2477.html
前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 「今日は虚無の曜日だから、学校は休み。町に買い物に行くわよ。」 翌朝。康一に起こされたルイズは着替えを済ませるとこういった。 昨日のことを怒ったままでいいのか、許せばいいのかわからないといった顔をしている。 「へぇ!買い物かぁ!」 康一はルイズの複雑な心境には気づかずに目を輝かせた。 この魔法の世界ってやつで、どんなものが売られてるのか興味がある。 「でも、ぼく、ここのお金持ってないよ?」 康一は、ズボンのポケットに入れっぱなしだった財布から紙幣や硬貨を取り出した。 ルイズは目を丸くした。 「これ、あんたの国のお金なわけ?」 「うん、まぁね。こっちがぼくの国の通貨の『円』で、こっちがぼくが君に召喚された時に居た国の『イタリアリラ』だよ。」 康一は右手と左手に一万円札や百円玉などといった『円』、そしてイタリアリラをそれぞれ分けて見せた。 ルイズは100円玉をつまんでみた。 「・・・なんだか材質が安そうね。鉄かしら。」 「うーん、材質はよくわかんないけど・・・」 鉄・・・だっけ?康一は頭をひねった。 「お金の材質もわかんないのに、よくそれで通貨として使えるわねー。」 「えーっと、よくわからないけど、そういうものなんだよ。」 「まぁ、細工は結構綺麗な気がするわ。でも、ここでは鉄くずね。」 むこうでは結構大金なんだけど・・・。康一は肩を落とした。 予想はしていたことだが、自分はここでは無一文なのだ。 「お金の心配はしなくていいわよ。」 康一が見ると、ルイズは当然でしょ、といった顔をする。 「あんたはわたしの使い魔なんだからね!主人がお金の面倒をみるのはあたりまえでしょ!」 「そっか!そういえば、ぼくってルイズの使い魔だったよね。助かるなぁー!」 ルイズは思わず頬を緩めかけたが、あわてて表情を取り繕った。 「それじゃ、朝ごはんを食べたら早速出発よ。」 「うん、わかったよ。ところで、町までってどれくらいかかるの?」 「馬で3時間ってところかしらね。」 康一はピタリ動きをとめた。 「心配しなくても学院にあんたの分も借りられるはずだから。」 康一にそういうと、ルイズは先に歩き出す。 「うま?」 康一は冷や汗を流した。 「まさかあんたを馬に乗せるだけでこんなに手間取るなんてね・・・」 ルイズは心の底からあきれた様子で言った。 「そんなこと言ったって、馬になんか触ったのも初めてなんだから!」 康一は馬上で四苦八苦している。 厩で手綱を渡されても乗り方すらわからず、見よう見まねで乗ってみると後ろ向きにまたがってしまい、それまま馬が歩き出したので落馬してしまったりした。 しかもその後、手伝ってもらってなんとか乗れたものの、男性用の鐙に康一の足が届かないハプニングまで起こってしまい、それを取り替えるのにまた時間がかかったのだ。 しかしルイズは、なんだかんだと文句を言いながら、コーイチに馬の扱いを教えてあげるのが意外と楽しそうな様子である。 一方そのころ、キュルケは自分の部屋の窓際でぼんやりと外を見つめていた。 思うのは、ルイズの不思議な使い魔。コーイチのことである。 キュルケはもともと、たくましくて頼りになる男のほうが好みである。 コーイチのような自分より小さな男に恋したのはいままで初めてだった。 小さくて純朴そうなコーイチを見ていると、守ってあげたくなるのだ。 でも同時に、いざというときの勇気や頼もしさはそこらに転がっている男連中なんか比べ物にならない。 可愛さと頼もしさの両方を併せ持つコーイチを思うだけで、キュルケの胸の内は、ちりちりと微熱に焼かれるのだった。 「それに、あのミステリアスなところも・・・。興味が尽きないわ・・・」 キュルケは物憂げにため息をついた。 そのとき、眼下の門を誰かが出て行くのが見えた。 馬に乗っているのが二人。あの桃色はルイズだわ。そして少し後をついていくのは・・・ 「ダーリンだわ!」 キュルケは立ち上がった。 二人は町の方角へと馬を走らせていく。 「ルイズ。色気じゃあたしに勝てないからって、もので釣るつもりね!」 キュルケは歯噛みした。 ツェルプストー一族には、恋敵が居たほうがさらに燃え上がる。代々そういう血が流れているのだ。 今すぐ追いかけたい!しかし、今から馬を手配して追いかけても、到底追いつくことはできないだろう。 「じゃあ、方法はひとつしかないわね!」 キュルケは杖とマントをつかむと、部屋を飛び出した。 馬というのは歩く生き物であるからして、座っていると一歩一歩上下するものである。 康一は、鞍にしこたま尻を突き上げられ、悲鳴をあげながら馬の扱いに苦心していた。 「西部劇とかだと颯爽と乗ってたりするけど、これあんまりいいものじゃないなぁ。お尻が痛いし。」 「慣れればなんともなくなるわよ。それに馬にも乗れなかったら馬鹿にされるわよ。」 「馬鹿にされてもいいから早く休みたいよぉ。後どのくらい?」 「まだ半分も来てないわよ。」 康一は絶望的な顔になった。 その上にふっと大きな影が落ちた。 「あれ。なんだろう。」 康一は不思議に思って空を見上げた。 すると、羽ばたきの音とともに、空を飛ぶ大きな竜が自分めがけて降下してくるのが見えた。 康一は驚いたが、もっと驚いたのは康一が乗っていた馬である。 恐怖でパニックを起こし、街道を全速力で走り始めたのだ。 「うわぁぁぁぁぁ!!!」 康一は振り落とされないようしがみつくばかりである。 「コーイチ!」 ルイズは立ち上がる馬を制するのに手一杯で助けに行くことができない。 竜は爆走する馬に滑空して追いついた。背後に存在は感じるものの、康一は振り向くこともできない。 「(し、死ぬぅー!)」 竜に食べられるか、馬から落ちるか! しかしそんな康一の背後に、ふわりと何かが降りてきた。 康一の手から手綱を取ると、強く引いて落ち着かせる。 「どう!どう!」 康一はその声に聞き覚えがあった。 「きゅ、キュルケさん!?」 キュルケは馬を落ち着かせると、花のような笑顔で微笑んだ。 「驚かせてしまったみたいね。ごめんなさい。」 康一を背後から抱きしめるような格好である。 「ど、どうしてここに!?」 「コーイチが町に行くのが見えたから、友達の竜に乗せて貰って追いかけてきたの。迷惑だったかしら?」 「迷惑だなんて・・・びっくりはしましたけど。」 どうやら竜の上から助けに降りてきてくれたらしい。康一は胸をなでおろした。 そんな二人の横に、先ほどの竜がゆっくりと降りてくる。 竜の背には眼鏡をかけた小さな女の子が乗っているようだ。 ようやくルイズも自分の馬を落ち着かせることができたようで、ものすごい勢いで馬を走らせてきた。 「キュルケ!こんなところで何してるのよ!!」 「あーらルイズ。あたしがどこでなにをしようと、あなたに関係あるのかしら。」 キュルケは右手で手綱を持ち、左手で康一を抱きしめている。 「関係あるわ!わたしの使い魔から離れて!」 「あら。あたしはダーリンを助けてあげたのよ?」 頬を康一の頭にすり寄せる。胸が背中に当たるので、康一は赤くなった。 「あ、当たってるんですけど・・・」 「当ててるのよ。」 キュルケはルイズのほうを向いてにやりと笑った。 ルイズの額には青筋が浮いている。ピキピキという音が聞こえてきそうだ。 「キュルケ。その馬はわたしが手配したの。だからあんたは乗っちゃ駄目。ていうか、誰がダーリンよ誰が!」 「しょうがないわねぇ。」 口では言うものの降りる気は毛頭ないキュルケである。 「それじゃ、ダーリン?こんな慣れない馬にのって疲れたでしょ。あの風竜に乗っていかない?」 いいでしょ?タバサ。と竜に乗っている少女に尋ねた。 少女はそ知らぬ風に本を読んでいるが、キュルケはそこに同意を見たらしい。 「かまわない、ですって。」 「ええっ、ほんとう!?」 馬には辟易していたところだ。しかも、初めて近くで見る竜である(遠くで飛んでいるのは何度か見た)、乗せて貰えるなら乗ってみたい。 「だっ!ダメよ!ダメ!ご主人様をおいていくなんて使い魔失格なんだから!」 ルイズが叫ぶ。ツェルプストーに康一をとられてはたまらない。 「じゃあいいじゃない。ダーリンも馬に慣れるまでは一緒に乗ってくれる人が必要だわ。」 先にいって待ってて、と風竜を先に行かせると、キュルケは馬を御して歩き出す。 「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」 ルイズがあわてて追いかける。 『じゃああたしの後ろに乗ればいいじゃない。』 とはまだ言えないルイズだった。 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/779.html
「俺の名はペイジ」 ドォッシュウウウ 「ジョーンズ」 ボシュウッ 「プラント」 ジュウウウウウウウ 「ボーンナム 血管s」 デロリン 「ルン!ルン!ルン!」 ゴシャァアッ 「ズラ!」 ボシ─── 「え!?…オレ? 外に居たのは……おれだったァ── 棺桶の中に居たはずなのにィ~~~~」 ゾバゾバッ 爆音が響き、土煙を巻き上げて何かを呼び出す閃光。 そして、土煙が晴れる度に日光を浴びる度に呼び出した使い魔が溶けて消えていく。 それが今日の『ゼロのルイズ』の『サモン・サーヴァント』の晴舞台であった。 「おいおい、一体何回死なせるんだよ!」 「ゼロじゃなくて死神のルイズか!?」 「十回超えてるじゃねぇェかよぉぉお! なあ、帰っていいだろぉぉおお? なぁぁああ、こく……コルベールの先生よぉぉおお!」 爆発と召還と消滅の一連の動作を遠巻きに見ている外野もいい加減飽きてきたらしい。 最初は囃し立てるような大きな声で野次を飛ばしていたが、 今はもうささやきのようになっている。 「……ミス・ヴァリエール」 生徒に比べて比較的近く、しかし爆発に巻き込まれない絶妙な位置に立っていたハゲが ルイズと呼ばれた少女に話しかける。 「予定時間を考えると今日は次で最後です。 それで駄目だったら、翌日にしましょう。まだ猶予はありますからね」 声を掛けられた少女は、その言葉に一際表情を引き締めた。 ここで失敗したら明日は余計にバカにされると分かっているからだ。 人一倍プライドの高い彼女にとってそれだけは許してはならない事なのだ。 「どーせ駄目なんだからやるだけ無駄だって。 なんせ『ゼロのルイズ』なんだからなァアア!」 最後、という言葉に勢いを取り戻した野次を無視し、 ルイズは呪文を口にし、意識を集中させていく。 「宇宙の果てのどこかにいる私のしもべよ…… 神聖で美しく、そして、強力な使い魔よッ 私は心より求め、訴えるわ 我が導きに……答えなさいッ!!」 ドッグォオオオン! 何度目か分からない呪文の後、 一際強い爆発と共に派手に土煙が上がった。 ───────ゼロのメイジとアホの使い魔 「んだァ?こりゃあ?」 冬の寒さがいよいよ到来してきた頃、 仗助や康一と『トラザルディー』で昼飯を食っての帰路、 心身共に健康になった億泰は『ソレ』に眉を顰めて無い脳みそを回転させていた。 『ソレ』は家の扉の真ん前に出ていた『鏡』だった。 高さ2メートル、幅1メートルはありそうな楕円形で、しかも宙に浮いている。 スタンド使いならすぐさま警戒しそうな所だが、 吉良吉影が倒されて以来スタンド使いによる目立った事件が無かったために 億泰はすっかりと油断していた。 一般人でもやりそうな何かを投げつけるような行動もせず、いきなり鏡に触れた! 通らないと家に入れなかったため、さっさと潜り抜けようと思ったのだ。 バリィ! 「うっ、うおおおおおおおお~~~~~~~ッ!?」 かつて『レッド・ホット・チリ・ペッパー』に地下ケーブルへと 引きずり込まれた時のようなショックを受け、 そのまま倒れこむようにして鏡へ飛び込んでしまった! そして絶え間なく続く衝撃に意識を手放してしまう。 油断とはいえこの男、オツムが足りないのだろうか。 「っつ~~~~~~~~」 「あんた誰?」 誰かに呼びかけられた気がして、頭を抱えながら億泰は目覚めた。 まず、地方とはいえ五万三千の人口を抱える杜王町では 見る事のできないような澄んだ空が目に入った。 次に、ピンクが強く出たブロンドの髪をした少女が覗き込んでいる事に気がつく。 よく見ると黒いマントに杖を持っていて、 まるで昔兄貴に読んでもらった絵本に出てきた魔法使いのような格好だ。 遠くにはお城まで聳え立っている。 (おいおい~~~!俺は家の前に居た筈だよなァ~~~! なんだこの状況はよォ。外人さんに囲まれてんじゃねえかぁあ~~!) 「貴族を無視していいと思ってるの! 私が誰かと尋ねてるの!さっさと答えなさい!」 珍しく思考に没頭する事となった億泰だったが、 その女の様子にプッツン由花子を連想してしまい、 ふくらんだ風船が萎んだような気分になった。 答えないのも面倒くさそーな気がして、投げやりに答える。 「俺は虹村億泰…だ」 起き上がりながら周囲を見渡すと、 ルイズと同じような格好をした少年少女と、ハゲ。 そしてその周りには……何体ものモンスターが! 「ニジムラオクヤス?変な名前ね。 一体どこの平民n」 「ってなんだってェーーーーっ!! 『ザ・ハンド』!」 ズギュン! 他の使い魔達を見て思わずスタンドを発現する。 「プッ!」 「アハハハハハ!流石『ゼロのルイズ』だ!」 「フッフッフッフハハハフフフフヘハハハハフホホアハハ」 「ウケッウケッウケコッウコケウコケ ウヒャホコケコケコケケケケケケケケコケコ」 「『サモン・サーヴァント』で平民を! それも頭の飛び切り悪そうなのを召喚したぞ!」 「いや、頭がおかしいんじゃないか!? いきなり叫んでるぞアイツ!」 その様子を見て周囲の生徒で笑いが巻き起こった。 確かに頭悪いのは事実だけどよォー、 としょんぼりしながらスタンドを解除する億泰。 どうやらこの中にはスタンド使いも敵もいないらしい。 その裏でルイズは億泰のスタンド発現に続き、 他の生徒の爆笑のせいで完全にセリフがぶった切られてプッツンしていた。 「ミ、ミミミミミスタ・コルベール! 再召喚させてくだs」 「NO!NO!NO!NO!NO! 君はこの儀式を愚弄するのかね!ミス・ヴァリエール! それも!今日の最後の猶予で! 平民とはいえ成功したならやり直しは有り得ないィイイ!」 だが、更にセリフを潰されながら拒否されてしまった。 「でも平民を使い魔にするなんて聞いた事がありません!」 「例外は認めないィィイイ! だから彼を君の使い魔にするんだ。早く続けなさい」 さらりと言われ、ルイズは諦めたように返事をした。 「………分かりました」 立ち尽くしている億泰へと改めて目を移す。 180サント近い背に、間の抜けた顔つき。 どうやったって好意的には見れないが、諦めたようにルイズは歩み寄りながら呪文を唱える。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン。 この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 杖を億泰の頭に乗せ、力ずくでしゃがませて額に移す。 「イテ!イテェ!なにしやが…」 (さよなら、私のファーストキス) ズキュウウウウウウウウン! 喚く億泰を無視して!心で涙を流しながらも強引にルイズはキスをした! ただし、一瞬だけ。触れるなり思いっきり突き飛ばすように離れてだが! 「終わりました……」 「………」 ブワァァ! と、急激に億泰が涙を流しだした。 「お、俺が…女の子から…チューされた…?」 スタンドも月までぶっ飛ぶ衝撃を身をもって味わい、 そんな事で幸せを噛み締めている億泰だったが… 「くぁ!?」 その余韻は左手に突如襲い掛かった熱にかき消された。 焼けた鉄板に押し付けるような熱さに思わず億泰は草原の上を転げまわる。 「あづ、あち、アチィイイ!」 「五月蝿いわね……使い魔のルーンが刻まれてるだけよ」 そう言いつつも、ルイズの心はやっと安堵できていた。 『サモン・サーヴァント』も『コントラクト・サーヴァント』も成功した。 だが、その一方で平民という事実がルイズに重くのしかかっている。 この男が今日召喚された使い魔の中で『最も恐ろしい』という事も知らずに……
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2593.html
レコン・キスタの奇襲により開始されたタルブでの会戦は、二日も経たず終わりを迎えた。 トリステイン王国王女アンリエッタ・ド・トリステインと、アルビオン王国皇太子ウェールズ・テューダーの手によるオクタゴンスペルにより、アルビオン軍は艦隊及び地上軍の大半を喪失。 竜巻の直撃と、竜巻に巻き込まれた艦隊の直撃を受ける事無く、幸運にも辛うじて生き残った兵達は、始祖の子孫達の恐るべき魔力を目の当たりにした為にそのほぼ全てが投降、もしくは逃走を図った。 タルブ平原に駆け付けたトリステイン軍は、逃走したアルビオン兵の捕縛に杖を振るう事となった。 その顛末を、ルイズは知らない。 タルブ平原に艦隊を突き立てた竜巻の後に発生した、まるで太陽が地表に生まれたかの様な光球を生み出した張本人である彼女は、ジョセフが操っていたゼロ戦が空に見えなくなったのを見届けた後、身体の底から湧き上がる激情に押され戦場を後にしていた。 自分が伝説の虚無の担い手である事も、敬愛するアンリエッタを救えた事も、今のルイズには何の価値とてなかった。 ――失った。無くしてしまった。 自分の手で、使い魔を、ジョセフ・ジョースターを帰してしまった。 もう二度と会う事が出来ない。 別れを交わす事も出来ず、感謝を述べる事も出来ず。 あんな『ひこうき』で来なくてもいい戦場までやってきて、最後の最後まで関らなくてもいい危険に関ってきた恩人に、何も自分は報いてやれなかった。 鞍の上でルイズは、人目がないのをいい事にひたすら泣きじゃくっていた。 涙が枯れ果てても、喉が嗄れ果てても、それでも悲しみは涸れなかった。 日が落ち、二つの月と無数の星だけが照らす夜道を一人、ただ馬を進ませ、悲しみに暮れる以外ルイズは何もしなかった。 魔法学院に帰り着いたのは、東の空が僅かに白み始めた頃。寝ぼけ眼を擦りながら出てきた馬子の前で馬から下りた後は、幽霊の様なおぼつかない足取りで寮へと向かうしかない。 鉛の様に重い身体を強引に引っ張り上げる様な気持ちのまま、やっと辿り着いた何日ぶりかの自室のドアの前で、ドアノブに手を伸ばそうとし、ノブを握ろうとし、扉を開けるまでの段階でそれぞれ重大な決意を経過した後、ドアを軋ませながら開いた。 双月の光だけが部屋を照らす中、つい数ヶ月前までそうだった部屋を見れば、また悲しみが膨れ上がる様に込み上げてくる。 ジョセフがいない。ジョセフがいない。もう、帰ってこない―― サモン・サーヴァントで図体のでかい老人を召喚してしまった時の失望から、掛け替えの無い存在になるまで、本当にあっと言う間だった。 使い魔はメイジの半身だ、と言う言葉の意味を、ルイズはひたすらに痛感していた。 「う……うあっ、ううぅ……」 もう泣きたくなんて無いのに、体の中から嗚咽が昇ってくる。 ベッドに突っ伏し、布団を被り、枕を抱き締めて泣きじゃくろうとベッドに向かう直前に、机の上に残されたジョセフの帽子が目に入る。 それと同時に、帽子の下に置かれた便箋が目に入ったのは、ほんの偶然だった。 「……手紙……?」 ぐす、と鼻を啜りつつ、ジョセフが残して行ったのが明白な手紙を今読もうとする気になれたのは、馬の上で十分に泣いていたからだろう。 帽子を摘み、きゅ、と両腕で抱いてから、便箋を手に取る。 「…………?」 内容自体はすぐに読み終わる。 しかし、意味が判らない。 文法が支離滅裂だとか、字が汚くて解読不能だからではない。 走り書きで書かれた文面は、これだけだった。 【ルイズへ。わしが元の世界に帰ってから15日後、もう一度サモン・サーヴァントを行え。出来れば広い場所で。コッパゲと、ジェットに選ばれた友人達も立ち合わせとけ】 「ん、んんんん……?」 今の今まで悲しみばかりに支配されていたのも、どこかへ消え失せてしまった。 ジョセフが何を意図してこの最後の手紙を書いたのかが、全く判らなかったからだ。 一度使い魔になった動物は、死ぬまで使い魔のままだ。 使い魔がいるメイジがサモン・サーヴァントを唱えても、ゲートが開く事は決してない。ゲートが開く場合は、使い魔が死んでいなければならない、が。 「……ジョセフが自殺するとか、有り得ないし」 誰に聞かせる訳でもなくそう呟くと、ベッドに腰掛けて眉間に皺を寄せる。 ルイズには確信があった。 ジョセフ・ジョースターは、そんなつまらない事で死んだりしない。 いくら可愛がっている主人の為とは言え、新しい使い魔を呼び出させる為に自分で死を選ぶ人間ではない。 では、自分は死なずに向こうの世界で生きているとこちらに知らせる為? 「……だったら、15日後でなくていいじゃない」 そう、意味が判らないのはわざわざ15日後と指定している事。 自分の生存表明をさせる様なイヤミをするはずがないのも、ルイズは十分に承知している。 では、一体この別れの挨拶が意味しているものは何なのか。 そして、自分一人ではなく、友人達も立ち会わせる理由は何か。 意味の判らない事をするとしても、意味の無い事をジョセフはするだろうか? 「…………この手紙を書いたのは……、この部屋を出て行く前よね」 急いで部屋を後にしなければならない状況の中、これだけの文章を残せれば自分の目的を果たせるとジョセフは判断したと言う事だ。 「…………判らない、判らないわ」 この手紙を残す意図が判らない。 別れの挨拶にしては、余りに情緒がない。最後のメッセージとしては、余りに意味が判らない。 ルイズは手紙の意味を考えるのを放棄した証拠として、背中からベッドに倒れ込んだ。 生まれて初めて自分の系統に基づいた正しい魔法を行使した身体は、ルイズが考えているよりも強烈な疲労を蓄積させていた。 そのまま深い眠りに落ちた結果、ルイズがもう一度目覚めた時には夜闇の中で月が煌々と輝いており、丸一日完全に眠りの中で過ごしたと気付くのにもう少しばかりの時間を要する事になったのは、また別の話である。 ☆ ――ジョセフが日食の輪を潜り抜けてから、15日後の昼。 あの日サモン・サーヴァントでジョセフを召喚したアウストリの広場に集まったのは、ルイズとコルベール、そしてジェットに選ばれたキュルケ、タバサ、ギーシュの合わせて五人。 ウェールズ本人は今となってはアルビオン亡命政府の長、つまりはアルビオン王国の王となっている。 共に手を携え、アルビオン軍をウェールズとアンリエッタの二人で撃破した華々しい物語は、トリステインのみならず近隣諸国にも轟き渡った。 アンリエッタ王女の政略結婚は土壇場で解消し、改めてトリステイン、ゲルマニアの軍事同盟にアルビオン王国が加盟する事がつい先日決定した所である。 トリステインはほぼ壊滅したアルビオン神聖帝国の数少ない残存兵を取り込んで、現在はアルビオン大陸の簒奪者達を如何に仕留めるか、そして気が早い者はアルビオン大陸を如何に切り分けるかを話し合っている真っ最中。 晴れて王冠を戴き、トリステインの新たな女王となったアンリエッタは、最愛のウェールズ国王との婚姻の儀を挙げる為、多忙な日々を過ごしているのだった。 「しかし、僕もジョジョが残した手紙の意味がついぞ判らなかったな。何にせよ、ルイズがサモン・サーヴァントを行えばその意味も判るんだろうけれど」 穴の中から頭と両前足を出しているヴェルダンデを抱き締めたまま頬擦りしながら、ギーシュが今日集められた全員の気持ちを代弁する。 ジョセフが指定した面々に手紙を読ませてみても、ジョセフが意図しているであろう目的を考え付いた者はいなかったのである。 「まあ、後はちゃあんとルイズがサモン・サーヴァントを成功させるって言う最大の難関が待ち構えているんだけど。大丈夫、ラ・ヴァリエール?」 相変わらず、ルイズを小馬鹿にした笑いにも、ルイズはふんと鼻を鳴らして答えた。 「御心配痛み入るわ、ツェルプストー。これでもコモン・マジックは成功する様になったのよ。いつまでもゼロだとか言われてるだけの私じゃあないって事よ」 いつも通りの口喧嘩が始まるのは華麗に無視し、タバサは地面に座ったまま読書を続けていた。 虚無の系統に目覚めてから、正しい魔力の使い方を身体が理解したのか、初歩的な魔法を使うのに不自由は無くなった。四大系統の魔法は何一つ使えないにせよ、ルイズにとっては大きな進歩だった。 とは言え、虚無の担い手である事はアンリエッタにも話していない。 伝説の系統に目覚めた事を自慢して回る気には、どうしてもなれなかったのだ。 ゼロのルイズで無くなった喜びは確かにあるが、ジョセフとの別れを引き摺ってしまっている事が何より大きく、それに加えて手紙の謎が気になっているのもあった。 あの日から何度も何度も読み返した手紙をポケットから取り出すと、もう一度文面を読み返してみる。当然意味は判らない……が。 (……今になったら、この手紙は本当に助かったわ。もっと意味が判る手紙だとしたら……まだ部屋で泣いてたかもしれないもの) 主人が泣き腫らして部屋に帰って来る事を考えて、ジョセフはこの手紙を書いたのだろうか。 だとすれば、随分と気配りが行き届いていると言うか、全てお見通しと言うか。 スカートのポケットの中に入れている手紙を、愛しげに指先でもう一度触れてから、進級試験の日と同じ面持ちで立っているコルベールに、ルイズは静かに視線を向けた。 「準備はいいかね、ミス・ヴァリエール」 コルベールの問い掛けに、ルイズはしっかり頷く。 ルイズの一連の仕草を見つめ、コルベールは知らず微笑を浮かべていた。 あの進級試験の日とは、ルイズの態度は比べ物にならないほど堂々としたものだった。 ゼロのルイズと馬鹿にされ、劣等感の塊だった少女はもういない。 ここに立っているのは、貴族と呼ばれるに相応しい立派なメイジの一人だった。 (ジョースター君。君がミス・ヴァリエールの使い魔で、本当に良かった。たった二ヶ月足らずの時間を分けてもらったお陰で、彼女は救われる事が出来たのだから――) 日食の輪の向こうへ去った友人に、心の中で礼を述べる。 そして教師としての眼差しで、ルイズを見やる。 「では、ミス・ヴァリエール。サモン・サーヴァントを」 「はい」 すう、と一つ息を吸い、ゆっくりと吐き出す。 ジョセフがいつも行っていた波紋の呼吸の様に、大きく長い深呼吸。 そして愛用の杖を掲げると、朗々と召喚の呪文を唱えていく。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。我の運命に従いし、"使い魔"を召喚せよ!」 呪文の完成と同時に、勢い良く杖を振り下ろす。 次の瞬間――白く光る鏡の様なゲートが、完成した。 誰かが息を呑んだ音が、無闇に大きく聞こえた。 契約した使い魔が生きている場合、ゲートは開かれない。 ゲートが開かれていると言う事は、つまりジョセフは死んだと言う事実を厳然と示すものだった。 サモン・サーヴァントのルールを知らない者は、ここにはいない。 「ル……ルイズ!」 ゲートを閉じるんだ、と続けようとしたギーシュの言葉が、思わず飲み込まれた。 ルイズは、ゲートから目を背けていなかった。 そこには、“信頼”があった。 盲目的でも依存でもなく、ジョセフ・ジョースターと言う人間を信じる輝かしさ。 ゲートから照らされる光だけではなく、ルイズの立つ姿そのものから光が発せられている様な、そんな錯覚さえギーシュは感じてしまった。 ゲートが開かれてから、ほんの数秒。しかし、これから何が起こるのかを固唾を呑んで見守る全員には、とんでもなく長い時間が経過した様に思われたその時―― 「ゲートの前からどいとけッ! デカいのが行くぞォーーーーッ!!」 聞き間違えようが無い。 ゲートの向こうから聞こえた叫び声は、ジョセフの声だった。 そして次の瞬間、メイジ達は信じられない光景を目の当たりにする事になる。 爆発にも似た轟音が断続的にゲートの向こうから聞こえ、ゲートが奇妙に大きく引き伸ばされたかと思うと、見た事の無い“何か”がゲートの中から現れてくる。 タバサが杖を一振りし、風のロープでルイズを掴んでゲートの前から引き離した。 ゲートを潜り抜けて来たのはピカピカと鮮やかな紫に輝く、巨大な物体。その大きさと言えば、まるでちょっとした建物並。そんな物体がスムーズにゲートを潜り抜けてくる。 紫色の部分が出終わったかと思えば、その後ろからは紫の物体に負けず劣らず巨大な、銀色の長方形。紫と銀の物体には、人の背丈程もある黒々とした車輪が幾つも連なっており、巨大な物体達には似つかわしくないスムーズな前進を可能としていた。 一つの長方形が出終わったかと思えば、その長方形に繋がってまた同じ形の長方形が出てくる。そして合計三つの銀の長方形が出終わると、召喚を終えたゲートは閉じてしまった。 「な、な、な……」 生徒達を見守り指導するコルベールでさえ、想像を絶する召喚に意味のある言葉が出ない。 年若い少年少女達に至っては、度肝を抜かれたと言う言葉そのものの表情で、ただ出てきた物体を見上げる事しか出来なかった。 それはアメリカントラックと呼ばれる、アメリカの緩い規制の産物とも言える巨大トラック。日本では「コンボイ」と呼ばれる事が多く、ロボットにトランスフォームするトラックとして有名な、トラックであった。 だがしかし、ここにいる全員はそんな名前など知る由も無い。 「……ぅぉーぃ」 鳴り止まないエンジン音の中、微かに聞こえる呼び声に気付いたのは、風のメイジであるタバサだった。 召喚されたコンボイの先頭、紫の物体の中からその声は聞こえてくる。 よく見てみれば、紫の物体の正面上側には巨大なガラス窓がはめ込まれており、横側には数段の階段が取り付けられたドアが付いている様だった。 タバサは短い呪文を一言唱えると、ガラス窓の高さまで浮き上がって中の様子を窺った。 ガラス窓の向こうには黒光りする座席があり、その上にはジョセフが腰に佩いていた大剣、デルフリンガーが鞘から半ば抜かれて横たわっていた。 宙に浮いて自分を見つめるタバサに気付いたデルフリンガーは、かちかち柄を鳴らす。 「おお、久し振りだな。とりあえず横のドア開けてくれっか、うるさくて仕方ねぇだろ」 タバサはこくりと頷くと、そのままドアに連なるステップに着地し、ドアノブだと思われる凹みに指を掛けてドアを開いた。 「んじゃあ、そこに鍵が掛かってるだろ。それを捻ったらエンジンが止まる」 その言葉に視線を巡らせると、確かに穴に刺さった鍵がある。華奢な手を伸ばし、鍵を捻ると鳴り響き続けていたエンジン音がゆっくり途絶えて行った。 「さぁてと、だ。元の世界に帰った相棒からお前らに手紙とプレゼントを言付かってるんでな。いいモンばっかりだぜ、俺っちがありもしない腰抜かすくらいにな」 くく、とデルフリンガーが笑う。 タバサは軽口に笑う事もなかったが、興味深そうに青い瞳を剣に向けた。 剣の横には手紙の束が置かれており、その一番上に置かれた封筒には『わしの親愛なる友人達へ』と書かれているのが見えた。 「一番上の手紙は全員で読んでほしいってよ。それぞれの手紙は別に書いてあるぜ」 タバサは無言で手紙の束を手に取り、今までに触った事のないつるつるした手触りの紙に一瞬だけ視線を留まらせてから、自分とデルフリンガーに風を纏わせて運転席から地面へと降りる。 手に持った手紙の束から一番上の封筒を取り出し、ルイズへ向けて静かに差し出した。 「……この手紙は、あなたの使い魔が書いたもの。なら、あなたが語って読むのが筋」 「――そうね」 差し出された手紙を受け取ると封筒を破り、中に入っていた数枚の便箋を取り出す。 便箋に書き連ねられた文章は、確かにジョセフが書いたそれ。 文面に視線を寄り添わせながら、内容をゆっくりと語り始める。 『この手紙がお前達に届いたと言う事は、わしの計画は全て上手く行ったと言う事だ。――ろくに別れの挨拶も出来なかったが、手紙で済ませる不義理を許してほしい』 ルイズの声で紡がれるジョセフの口調に、その場にいる全員がしっかりと耳を傾け。ルイズも時折息継ぎを挟みながら、使い魔からの最後の手紙を読み上げていく。 『そうそう、もし心配しているのならわしは無事に元の世界に戻り、お前達が手紙を読んでいる今も元気にピンピンしとるので心配せんでいい。わしからの手紙とプレゼントを贈る為、そしてルイズに使い魔を返す為にわしは考えた』 そこまで読んでから、不意にルイズの眉根が寄る。数度同じ箇所を読み返し、んん、と疑問めいた声を上げるルイズに、続きを待ち兼ねたギーシュが怪訝げに問いかけた。 「どうしたんだねルイズ。文章の綴りが間違ってるのかい?」 何度も同じ場所で視線を行ったり来たりさせているルイズに全員の視線が集まった所で、ルイズは文章の理解を諦めた。 「…………ねえ、私には理解が及ばないわ。誰か私の代わりに理解してくれないかしら」 そう言うと、その問題の箇所を指で示しながら全員に便箋を見せた。 文面を読んだ全員の視線が、ルイズと同じ様に何度も往復する動きを見せる間、余り表情を変化させない事に定評のあるタバサでさえ、その端正な顔に紛う事のない疑問を浮かべている。 他のメンバーに至っては、これ以上ないくらいに「理解不能」と顔全体で語っていた。 そこには、こう書かれていたのだった。 『……メイジと使い魔は一心同体、どちらかが死ぬまで使い魔の契約が切れる事はない。つまりルイズとの契約を破棄する為には、わしが一度死に、もう一度蘇生しちまえばいいと考えた――』 「……ん、んんん?」 何度も文章を読み返す中、必死に理解しようとする誰かかの吐息めいた声が知らず漏れるのを咎めたりする者もおらず、次の文章は更にメイジ達の理解を拒んでいた。 『どうせそっちに行くほんのちょっと前には、わしの爺さんの身体を乗っ取った吸血鬼に全身の血を抜かれて四分ほど心臓が止まった後に、吸血鬼の死体から取り返した血をもう一度身体に入れてから、心臓を無理矢理動かして蘇生した事もある。 たかだか一分くらい心臓止めただけで、わしが死んだとルーンが判断した時には少々拍子抜けもした』 さして長くもない文章が、大量の奇妙を内包している。 長い沈黙を経た後、意を決して口を開いたのはギーシュだった。 「……ここで一番僕達がすんなり納得できるとすれば、ジョセフが大分とホラを上乗せしているんだと考えるのが自然だと思うんだが、みんなはどう思う」 今まで培ってきた常識が根底から置いてきぼりにされた中、キュルケが辛うじて言葉を絞り出す。 「……そもそも吸血鬼に全身の血を抜かれて、取り戻した血をもう一度身体に入れて、心臓をもう一度動かして蘇った、って一連の言葉の意味が全く判らないわ。今までそんな言葉聞いた事ないもの」 ハルケギニアで初めて紡がれた言葉は、全員の脳裏に共通の疑問を生み出した。 ルイズは全員を代表するつもりもなく、生まれたばかりの疑問を口にした。 「……ジョセフの世界って一体どんな世界なのかしら」 『ひこうき』もそうだが、まるで想像も出来ない様な世界である事は疑い様もない。 ルイズは一つ小さく息を吐くと、考えても判らないジョセフの世界について考えるのを一旦放棄した。 「ほら、手紙の続きに戻るわよ。これ以上考えても多分判らないもの」 その言葉に、それもそうだと区切りを付けた全員に向けて、ルイズは朗読を再開した。 『が、それ以上に、これでルイズに残した手紙に書いた約束を守れる安心の方が大きかったのはマジなとこじゃ……』 「って何よこれ。いきなり砕けて来たわね」 「ここまで真面目な文体で書いてきたけど、そろそろ飽き始めてきてるのが目に見える様だわ」 「ジョジョにしちゃ大分もった方だと僕は思うなぁ」 口さがない部類の友人達の寸評を受けながらも、文面は唐突に終わりを迎えていた。 『そこで無事に帰れた記念に、わしの可愛いご主人様と掛け替えない友人達にささやかなプレゼントを用意した。それぞれに向けた手紙にわしからのメッセージと目録を書いてあるから、ケンカせずに仲良く分け合ってくれ』 ルイズがそこまで読み終えると、全員の目はコンテナへと向けられたのだった。 ☆ 『コルベールセンセへ。 センセへのプレゼントは、トラックとトラックの設計図。それからゼロ戦を一機用立てようかとも思ったんじゃが、流石にムリじゃった。わしの世界じゃ五十年前の骨董品で、残存数もほとんど無かったモンですまん。 代わりに、新品のセスナと設計図、ゼロ戦のエンジンのレプリカを用意した。二番目のコンテナに積んであるから、好きなだけ研究してくれ。いずれそっちでも飛行機が飛ぶのを期待しておるよ』 コルベールの研究室の横に、新たな掘っ立て小屋が建築された。 その中には固定化の魔法を施されたセスナが堂々と鎮座しており、コルベールが今までに見た事もない素材で作られた座席が彼の最高の居場所になっていた。 ジョセフからの贈り物であるセスナの設計図と、何度も分解しては組み立てて構造を把握したエンジンを見比べながら、もう二度と会えない友へ言葉を向けるのは最早日課となっていた。 「なあ、ミスタ・ジョースター。君の贈り物は決して無駄にはしないぞ。魔法に頼らず、誰にでも仕える立派な技術を開発してみせる。それが君に出来る、私からの返礼になるだろう……」 そしてコルベールは羊皮紙に向き直る。 自分自身で作り上げる新たなエンジンの開発の為に。 ――ジャン・コルベールはジョセフから送られたセスナとエンジンを研究し、パトロンの協力を得て飛空船オストラント号を開発。後年、ハルケギニアで初めて作られた飛行機での飛行に成功する。 『ギーシュへ。 お前へのプレゼントの一つ目は、わしの世界で流通しとる金属だ。名前はアルミニウム、軽くて丈夫で加工し易いのが取り柄だが、精製するのにえっれえエネルギーを必要とするのが玉に瑕ってトコロじゃな。 二つ目はアルミニウムの原料になるボーキサイト。熱帯雨林や熱帯雨林があった土地辺りによく鉱床があるらしい。コイツの粉末を吸い過ぎると肺をやられて四年くらいで死ぬから、取りに行く時はマスクをちゃんと付けておけよ。 三つ目がアルミニウムから作ったジュラルミン、四つ目がジュラルミンを更に強化した超ジュラルミン、五つ目が超ジュラルミンを更に強化した超々ジュラルミンじゃ。 コンテナもこの超々ジュラルミンで作られておる。お前も軽いだけの男でなく、軽いくせに使い勝手のいいアルミニウムの様な男になれよ』 一旦そこで文章は締められていたが、便箋とは別に小さな紙片に走り書きされた追伸も添えられていた。 『あ、そうそう。浮気とかマジやめとけ。甘く見とると命落としかねんぞ』 ギーシュに贈られたのは、未知の金属のインゴットと、その原料になる原石。それと何やら、切羽詰った忠告。 時折親愛なる友人からの手紙を読み返す度、ちょっとした苦笑は抑えられない。 「なんだい、破天荒な英雄にしちゃ随分と至らない所があるじゃないか」 たった二ヶ月の付き合いで、一生忘れられないインパクトを残して去って行った親友。 故郷に帰った時に、きっと修羅場か何かあったのだろう。アルヴィーズ大食堂での一悶着など比べ物にならないような、本物の修羅場が。そうでなければ、わざわざ本文とは別の追伸を書いて渡すはずがない。 後先考えず、昨日今日出会った友人を守る為に未知の敵との戦いを恐れない男でも、ちょっとした欠点がある。 ギーシュが様々な壁にぶち当たり心が折れそうな時、手紙を読み返してジョセフと愉快な友人達との騒々しい日々を思い起こし、心の支えとする。 あの騒々しい年甲斐のない友人と別れてから、もう十年以上になる。 最後の追伸を自分の胸の中だけに秘めておいたのは、親友への情けであった。 「きっと君は元気にやってるんだろう。僕もそれなりに元気にやってるし、モンモランシーも泣かせたりはあんまりしてない。長生きしたまえよ、ジョジョ」 もう二度と会う事のない親友に思いを馳せながら、手紙を左の胸ポケットへと仕舞った。 ――ギーシュ・ド・グラモンはグラモン家の四男として様々な戦功を挙げると共に、新種の金属『グラモニウム』の発見、開発に成功する。後に「グラモニウム」の二つ名を名乗り、愛妻との間に数人の子を生し立派な軍人となる。 『タバサへ。 お前へのプレゼントは、わしの世界で一番旨い牛一頭分の肉と、その牛の番いじゃ。 既に食える処理はしてあるから、マルトーに料理してもらえ。それと食べる時にはミスタ・オスマンにもお裾分けするといい。もしあんまりお気に召さんかったら、番いも潰して適当に食べてしまえばいい。 じゃが、食べた後にタバサはこう言うじゃろう』 「――私が今まで食べていたのは、サンダルの底だった」 手紙の最後に書かれていた言葉を読んだ上で、改めて口にしなければならないほど旨い牛。 ただ切って焼いただけのシンプルなステーキだと言うのに、熟れた果実を切る様にナイフが通り、噛めば噛むほど上質な脂が口一杯に迸る肉。 これに比べれば今まで食べていた“牛肉”など、サンダルの底でしかない。 「こいつぁすげえ……。俺達料理人の仕事は、そのままじゃ食べられない材料に手を掛けて食べられる様にするのと、より旨い飯に仕立てる事だ。まさか、材料の時点から手を掛けるだなんて、その発想自体が目から鱗ってヤツでさぁ……。 この牛があれば、ハルケギニア中の料理が全部引っくり返るのは言うまでもありませんや」 実際にこの牛肉を調理したマルトーが、同席しているオスマンに感嘆を惜しまない声を掛ける。 オスマンに出されたステーキがタバサのより明らかに小さいのは、三桁以上の年齢を重ねた老人が食べるにはパンチがあり過ぎると言う配慮ではあったが、オスマンは構わずぺろりとステーキを平らげていた。 「確かに旨い。わしも長く生きてきたが、こんなステーキは食べた事がない。しかし……これだけの牛を育てるのには、それに見合った手間がかかるようじゃな?」 口ひげに付いた肉汁をナプキンで拭きながら問い掛ける言葉に、タバサが小さく頷いた。 「――手紙に同封されていた手引書に寄れば、トウモロコシを食べさせ、ビールを飲ませ、毎日全身を決まった工程で刺激する。なおストレスを与えない為に、音楽を聞かせる、と書いてある」 淡々と告げられる言葉に、マルトーがカーッ、と声を漏らして顔に手を当てた。 「ちぇっ、いずれ潰されて食われる牛だってのに、まるでお貴族様の様な生活じゃねえですかい。いや、これだけの肉になるにゃそれだけの手間を掛けなくちゃならねえってことなんでしょうがね」 「ハルケギニアにいる牛も、それなりの味にする為の方法も提示されている。彼がもたらした牛には劣るだろうが、それでもこれまでに比べれば、きっと革命を起こすのは確実」 二人の言葉に鷹揚に頷くと、オスマンは料理長に視線をやった。 「まあとりあえず、今度はもっと分厚いレアで焼いてもらおうかの。わしはまだまだ長生きするつもりなのに、これだけ旨い肉を食う機会を無くしてしまうのは、余りに惜しい」 愉快げな笑みを浮かべるオスマンに、マルトーは満面の笑みで答えた。 「承知しました、そちらのお嬢さんもで?」 「次はこの牛の内臓が食べてみたい。適当な所を見繕って出してほしい」 表情を変えないまま、貴族が口にしない下手物を所望する小柄な少女にマルトーは恭しく一礼すると、厨房へと戻って腕によりを掛ける事にした。 ――タバサは後に、オスマンとの共同研究により動物や植物の品種改良技術の基礎を確立する。その中で『黄金より貴重』とまで言われる最高級牛の繁殖に成功した。 なお余談ではあるが、使い魔である竜へ事ある毎に最高級牛の品種名である「コービー」の名を付けようとして必死に拒否されるのは、タバサをよく知る者なら全員知っている奇癖であった。 『キュルケへ。 わしがお前にプレゼントするのは、わしの世界での最新ファッションのカタログとヘアカタログを一揃えじゃ。普段使い用の他に、お前の実家の宝物庫に収める分もワンセット用意しておいた。 前にシエスタを助ける為に譲ってもらった家宝の本の代わりと言う事で、勘弁してほしい。 ルイズの家と長年の恩讐があるのは知ってるし、国境を隔てたお隣同士っつーのは非常に仲が悪いのもよく知っちゃおる。知っちゃおるが、それでもやっぱりルイズは可愛いわしの孫なんでな。仲良くしてくれとまでは言わんが、お手柔らかに頼む。 お前はとても魅力的だし、自分がそうだと言う事もよく知っているだろう。 それならトリステインの小さな領土を取りに行くよりも、ゲルマニアの広大な領土を取りに行った方がずっと効率的だろうとわしは思ったりするが。 まあ、わしの贈り物がちょっとでも役に立ちゃ幸いじゃ』 「ダーリンの世界はすごいわねえ。もう何て言うか、あたし一人じゃ一生かかっても全部のドレスを試せそうにないもの」 かつてジョセフに請われて渡した、たった一冊の薄っぺらい「召喚されし書物」の代償としては、その重さも内容も比較するまでもない。 まるでその瞬間を切り取った様に克明な絵と、指さえ切れてしまいそうに薄い紙。この本だけでも好事家に売れば城でも買える金貨が手に入るだろう。 しかしキュルケにとっては、このカタログは何物にも勝る贈り物である。国一つと引き換えと言われれば交換を考えないでもないレベルの価値が其処にあった。 しかしハルケギニアでは想像もしないくらいに多種多様なデザインのドレスやヘアスタイルは、キュルケには似合わないものも多くある。 そこでキュルケが目を付けたのは、彼女の親愛なる友人であるタバサやルイズである。 キュルケとは種類の異なる美少女である二人は、キュルケの審美眼に拠って魅力的に着飾らされる羽目になり、圧倒的多数の男子と少数の女子からの恋文攻勢に立たされる破目にもなった。 そんな中でも特に彼女の目を引いたのは、「ブラジャー」と呼ばれる胸当てだった。 この下着は乳房を支えるのが主目的だが、デザインを工夫すればただでさえ大変な胸元がより大変になる事に気付いたその時、キュルケの野望は具現化したと言っても過言ではなかった。 今までも大きく広げていた制服の胸元がより大きく広げられ、これまでより更に深まった胸の谷間を彩る真紅の胸当ては、学院の男達の視線を以前とは比べ物にならないレベルで集めたのは言うまでもない。 学院を卒業するまでに流した浮名の数は、長い学院の歴史でも長く語り継がれる事になるのだが、それはキュルケと言う稀代の美女を語る上では序章でしかなかった。 ――キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーは、火の魔法と彼女自身の美貌を存分に駆使し、後に故郷ゲルマニアの女王として君臨する。 特定の配偶者を持たず、数多くの愛人と恋人を終生侍らせ続けた彼女は“処女王”の二つ名で呼ばれる事となる。 『わしの可愛いルイズへ。 この手紙を読んでいると言う事は、お前は魔法をきちんと使える一人前のメイジになったと言う事だろう。まーそーでなくとも、一度はわしを召喚しているのだから、もう一度くらいは召喚に成功してもバチは当たらんはずじゃ。 こんな形で別れる事になったのに心残りがないと言えば、嘘になる。お前に直接別れを告げられなかったし、お前が困っていても24時間以内に駆け付けてやれないのはとても辛いが、それは言っても詮無き事じゃから、な。 わしがたまたまお前の使い魔になった事も、短い間でさよならを言わなくちゃならなかった事も、それはきっとそうなるべくしてなった事なんじゃろう。だからもう、わしの事は気にするな。 わしはわしの世界で生きていかなければならんし、お前はお前の世界で生きていかなければならん。だから、もうわしらの手から離れた事をずーっと書き連ねても意味がない。 ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールはわしと言う使い魔を失ったかも知れん。しかし、わしといた二ヶ月でルイズが手に入れた物はそれ以上に沢山ある。今のお前には良き友人も教師も間違いなくいる。お前が何と言おうとな。 それは間違いなく、これからのお前にとってとてもとても大切な事じゃ。 わしも長い事生きてきたから、無二の親友を戦いで失いもしたし、わしを育ててくれたエリナおばあちゃんやスピードワゴンを見送りもした。しかし、それ以上にわしはもっと沢山の大切な物を手に入れてきた。 もしわしが大切な者を亡くした悲しみに捕らわれ続けていれば、お前と出会う二ヶ月も無かっただろう。お前達との二ヶ月間は本当に色んな事があった。じゃが、本当に楽しい二ヶ月だった。 異世界で出会った掛替えの無い友人達を、わしは死ぬまで忘れる事は無いじゃろう。 これからお前の行く道には色々と厄介事があるかもしれんが、今のお前は一人じゃあない。 お前は友を助け、友にお前を助けてもらえ。 最後になったが、わしがお前にしてやれる最後の贈り物を用意した。 わしの代わりに、お前の使い魔になる様な動物はどんなのがいいのか一生懸命考えた。ドラゴンやらグリフォンやらが実在する世界で、果たしてわしの用意できる程度の動物でいいのかと思ったが、まあカエルとかネズミとかの使い魔の方が一般的みたいじゃし別によかろう。 何はともあれ、これからのお前が幸せである様に祈っておる。 わしもお前に心配されん程度に、幸せにやっていくからな。 ルイズを愛するジョセフ・ジョースターより』 机に向かって羊皮紙にペンを走らせているルイズの耳に、ノックの音が聞こえた。 「開いているわ」 ペンは止めず、ドアに視線を向ける事も無く短く答える。 「失礼致します」 短い挨拶と共にドアを開けて入ってきたのは、シエスタだった。 手にはティーセットを乗せたトレイを持ってきており、ルイズの指示を受ける前に手馴れた様子でテーブルの上に茶の用意を済ませていく。 二人きりの部屋の中、さして互いに言葉を交わすでもなく、ペンが走る音とティーセットが微かに音を立てるだけの静寂の中、カップに注がれた茶が緩やかに湯気を立て出した頃にシエスタはルイズの背に向けて声を掛けた。 「ミス・ヴァリエール。お茶の用意が整いました」 「そう。じゃあ頂こうかしら」 ペン立てにペンを挿し、椅子を軋ませて立ち上がるとテーブルへと足を向ける。 テーブルの上にはティーカップと、クックベリーパイがツーピース乗った小皿。 ルイズの足取りに合わせてシエスタが引いた椅子に腰掛けると、まずは茶を一口。 「うん、いい案配ね」 「恐縮です」 矢鱈に視線を合わせはしないが、それぞれの口元は柔らかく綻んでいる。 二人を引き合わせた張本人であるジョセフはもういないが、シエスタはタルブの戦以来、タルブを守った英雄であるジョセフに返せなかった恩をほんの少しでも返すべく、ルイズに甲斐甲斐しく仕えると決意した。 ルイズはそれを嫌がるでも厭うでもなく、特に何も言わずシエスタを自分のお付きメイドとして扱う様にし、現在に至っている。 夏季休暇も終わり、そろそろ秋の気配が見える頃になっても、二人の会話の糸口は決まっていた。 「ジョセフさん、お元気にしておられるでしょうか」 「アレがそうそう耄碌するはずがないじゃない。だって私の使い魔だったんだもの」 殆ど毎日交わした決まり文句を口にしてから、パイを一口食べる。 「ところでシエスタ。貴方の故郷の様子はどうなってるの」 「ええ、平原はメチャクチャになっちゃいましたけど……フネの残骸やら何やらで結構な臨時収入が出来ましたので。来年にはまたブドウの作付けも出来るかと思います」 シエスタが笑みを浮かべながら答える言葉に嘘がない事を、ルイズは知っている。 今のルイズは、タルブの復興状況を知る立場にある。ジョセフからの手紙を受け取った後、ルイズは一人トリスタニア城へ出向き、自らが虚無の担い手であるらしい事をアンリエッタとウェールズに告白し、二人に宛てられた手紙を渡した。 アンリエッタは驚きながらも、親友が落ちこぼれのメイジどころか伝説の系統の使い手だった事を喜び、そして虚無の系統に目覚めた事を他言しない様に厳命した。 新たな女王の役に立ちたいと願うルイズと、親友を禍々しい権力闘争に巻き込みたくないアンリエッタの押し問答を押し留めたのは、アルビオンの王となったウェールズだった。 虚無の力を使う決断はアンリエッタに任せ、ルイズの独断で力を行使しないこと。この条件にまだ納得しかねたルイズに、ウェールズは少しばかり悪戯っぽい笑みを向けて説得した。 「あのジョセフ・ジョースターは、自分の力を濫用したりしなかった。しかし力を用いるべき時には、全力で事に挑んだ。だからこそ、私が今こうして生きて愛する従妹と婚約を結ぶ事が出来たのだ。 君の愛した使い魔は、君が無闇矢鱈に死地へ向かう事を願ったりはしないだろう。私達は、彼から貰い受けた多くの物を返す事が出来なかった代わりに、彼が大切にした少女を彼と同じ様に大切にしたいと考えている」 王としてではなく、友人として語り掛ける穏やかな口調。 それでもなお、でも、と反論しようとしたルイズに、ウェールズは僅かに口調を変えた。 友人の名誉を守ろうとする男の声で、静かに言葉を紡ぐ。 「あのジョセフ・ジョースターは、愛する主人に『国の為に力を使い尽くして死ね』なんて言うだろうか? もし彼がそう言うと思うのなら、君を私達の手駒とする事に異論はない」 そう言われてしまえば、ルイズにそれ以上歯向かう言葉など存在しない。 悲しげに俯いたルイズに、アンリエッタはすぐさま羽ペンを取ると羊皮紙に文面を書き連ねる。それはルイズを女王直属の女官とする許可証だった。 許可証をルイズに手渡すと、その手を離さないまま優しげな笑みを無二の親友へと向けた。 「今のわたくしには、愛するウェールズ陛下がおります。ですがルイズ、あの奇妙な使い魔と初めて出会った夜に言った言葉をもう一度、貴女に送ります」 女王から臣下に向ける為の表情ではなく、幼い頃からの親友に向ける為のアンリエッタの声色で、ルイズの手を握る手に力を込め、ブルーの瞳を潤ませて真正面からじっと見つめた。 「友達面で擦り寄ってくるだけの宮廷貴族達とは違う……私に真に忠誠を誓う貴女が、私には必要なの。今はもういないジョジョの分まで、わたくしの友人でいてほしいのよ、ルイズ!」 身に余る言葉を受け取ったルイズは感極まり、涙を流しながらアンリエッタに抱きついた。 「――女王陛下!」 「ああ、ルイズ! ルイズ! わたくし達だけの時はそんなよそよそしい呼び方をしないで! 昔の様に姫さまと呼んで!」 ひしと抱き合いながら、二人で気が済むまでおいおいと泣き合う姿を、ウェールズは目を細めながら眺めていた。 ルイズは感極まって泣き続けながらも、頭の何処かで何故こんなに涙が止まらないのかを理解した。 自分がメイジであるかどうかなど関係なく、自分を必要だと認めてくれる。 そう、ジョセフもそうだった。魔法が使えない落ちこぼれを馬鹿にする事無く、ルイズはただのルイズでいいのだと認めてくれた。 虚無の力ではなく、ルイズ本人を必要だと、敬愛する女王陛下とウェールズ陛下に認めてもらえた。 別れの手紙に書いてあった事は嘘ではなかった。今の私は一人ではないのだ、と、確信出来た喜びの涙だと、判ったからだった。 その日からルイズは、アンリエッタ達の前で『虚無』を口にする事はなくなった。 アルビオン大陸への封鎖作戦が進行しているとは言え、表向きは今すぐに戦争を仕掛けようとはしていないので国もそれなりには平穏を保っている。 休日には朝早く学院からトリスタニアへと向かい、アンリエッタの公務中は何をするでもなくただ女官として女王の側に立ち、時折出来る暇に言葉を交わし、慌しく短い食事の時間を共にしてまた学院へ帰る。 授業がある日には友人達と軽口を叩き合ったり一方的にからかわれたりしつつ、アンリエッタから届いた手紙に返事を書き、伝書フクロウに託す。 アンリエッタに送る手紙を書く手を一旦止めて、毎日の習慣となりつつあるティータイムを今日もまた過ごしていた。 空になったカップをソーサーの上に置くと、シエスタは慣れた手つきでそっとお茶を注いでいく。 「ジョセフさんの世界って本当にすごいんですね、ミス。贈られた軟膏でアカギレもひび割れも出来なくなっちゃいましたし、お腹の調子を悪くしてもあの丸薬ですぐに治ってしまいます」 シエスタにもジョセフからの手紙とプレゼントは贈られていた。 竜の羽衣のお陰でタルブを守れた事、無事に元の世界へ帰還できた事、シエスタの祖父の遺言通り、祖父の生まれた国へと返還した事、初めて会った時から親身になってくれた事。それらについて丁寧に礼が述べられた後、シエスタへのプレゼントも添えられていた。 見た事もない素材で作られた箱にたっぷりと詰められた、これまた見た事もない素材で作られた小さな筒に入った軟膏と、茶色の小さなガラス瓶に入った茶色の丸薬。そして軟膏と薬の作り方と材料。 ジョセフの世界の単語で言えば、ダンボール箱にたっぷり詰まった日本製の軟膏と正露丸。 軟膏の実物は学院中の使用人全員が毎日使っても二年分は優にあり、使用人の肌環境を劇的に改善させる事となった。 正露丸は魔法も必要とせず、ただ飲んだだけですぐに腹痛を治めてしまう。使用人のみならずメイジ達にもその評判は流れ、軟膏や正露丸自体やその材料の研究も流行の兆しを見せている。 「……そうね。あいつはいっつもそう。自分は他人の為に走り回ったくせに、あんなに一杯贈り物なんか贈ってきて。腹が立つわ」 ジョセフの話題になると時折零れる刺々しい言葉は、ジョセフへの思慕の情が漏れそうになるのを隠そうとするパフォーマンスである事は、シエスタのみならずルイズの主従関係を知る友人達にとっては周知の事実だった。 その証拠に、刺々しい言葉とは裏腹に、かつての使い魔を語る口調はいつもとても柔らかい。 しかしその柔らかな口調は、すぐに言葉に似つかわしい刺々しさを持つ事になる。 「……で、あいつは一体どこほっつき歩いてるのかしら」 「さあ……厨房からここまで擦れ違いませんでしたし、いつもの様にどこかで昼寝なさってるんじゃないでしょうか」 本格的な棘が発生しても、シエスタはどこ吹く風と言わんばかりにしれっとルイズの言葉を流す。 それがまたルイズの気に障り、見る見る間にテンションを上げさせて行く。 「あいつあたしの使い魔でしょ!? なのにいっつもご主人様の側にいないでほっつき歩きっぱなしってどう言うことかしら!」 それから一通りきーきー喚いている所に、ドアがギィと押し開けられた。 部屋へ入ってきた姿を見たルイズが、勢い良く椅子から立ち上がると鞭を“彼”へ向けた。 「一体今までどこブラブラしてたのよ! 使い魔がご主人様の側にいないって、アンタ本当に使い魔としての自覚あんのジョセフ!?」 しかし“ジョセフ”は意に介さず、後ろ足で首の後ろを掻いた。 その悠然とした態度が更に癇に障り、しばらく散々喚いて疲れたルイズがじとりとした目で“ジョセフ”を見下ろした。 ジョセフ・ジョースターがルイズへ贈ったのは、自分の代わりの使い魔になる動物だった。 ジョセフがスピードワゴン財団に無理を言って用意させたのは、虎の仔。地球に生息する虎の中でも最大級の体格を持ち、尚且つ生息する個体数も少ない貴重なアムールトラをルイズへと贈ったのだった。 無論ルイズはその虎にジョセフと名付け、使い魔として契約を果たした。 しかしこの虎は色々と小生意気で、コントラスト・サーヴァントも行ったにも拘らず、主人を主人と思っていない様に自由奔放に振舞う。 トラックのコンテナに設置された檻の中にいた時は猫程度の大きさだったのが、良く食べ良く寝て良く走った結果、あっと言う間に大型犬よりも大きくなっている。これで更に大きくなったら果たしてどうなるのか、今からルイズの頭痛の種だった。 「まあまあそう怒るなよ娘っ子」 部屋の隅でかちかち唾を鳴らし、能天気な声で取り成す剣の声が更に怒りを増幅させる。 「うるっさいわね! アンタはいいわね、前のジョセフの時も今のジョセフの時ものうのうと隠居暮らしが出来て」 「な! おめえそれは言っちゃなんねえ事だぞ! 大体娘っ子もお前らも伝説の剣を何だと思ってやがる!」 貴族と剣の言い争いも恒例行事。黒髪のメイドは意にも介さず、まだ手の付けられていないパイを手に取ると、ジョセフへと差し出した。 「ふふっ、ジョセフさん。沢山食べて大きくなるんですよー」 大きく開けた口の中へパイを落としてもらい、ジョセフは嬉しそうにパイを飲み込むとシエスタの足元へ身を摺り寄せた。 「あっ! こらジョセフ、何ご主人様以外の女に媚売ってるのよ!」 「あらミス、ジョセフさんと私はとーっても仲良しなんですよ? こんなに可愛い虎さんをしかってばかりの怖いご主人様より、ご飯上げて可愛がっちゃう私の方がずーっといいですよねー?」 がぁう、と虎が暢気に鳴いて、四つ巴の口喧嘩が発生するのもまた日常茶飯事。 伝説の担い手と伝説の使い魔は、そんな肩書きなど関係なくじゃれあっていた。 ――シエスタはそれから学院のメイドを数年勤めた後に故郷のタルブ村に帰り、丈夫で働き者の夫を得てブドウ栽培とワイン作りに専念する。 シエスタが完成させ、村の恩人である英雄の名を冠した「ジョースターワイン」は、ヴァリエール家の晩餐会に供され、トリステインでも屈指の高級ワインとして名を馳せる事となる。 ――ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、ウェールズ王と共に手を取り合うアンリエッタ女王の側に付き従い忠誠を誓う女官として、使い魔である巨大虎と共に歴史書に名を残す事になる。 彼女が虚無の担い手であった物語は世間に聞こえる事は決してなかったものの、彼女の誇り高い生涯はヴァリエールの子孫達に語り継がれていくのだった―― ゼロと奇妙な隠者 完
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/290.html
第一話 僕は使い魔① 第二話 僕は使い魔② 第三話 ゼロのルイズ① 第四話 ゼロのルイズ② 第五話 メロンとメイド 第六話 当然の理由 第七話 使い魔の決闘① 第八話 使い魔の決闘② 第九話 使い魔の決闘③ 第十話 使い魔の決闘④ 十一話 虚無の曜日 第十二話 デルフリンガー
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/441.html
「おい、起きな」 ガン!とルイズのベッドを蹴り飛ばす。しかしルイズは起きない。 ガン!もう一度、更に強く蹴り飛ばす。しかしルイズは目覚めない。 ドガン!更にもう一度、勢いをつけて蹴り飛ばす。しかしルイズは気付かない。 ベッドを蹴り飛ばしていた男の眼がスッと感情をなくす。 「クソガキ・・・このオレがわざわざ早起きまでして仕事をしてやってる ってェのによォォ~~」 ギアッチョの糸より細い堪忍袋の緒は音も立てずに切れた。 「ホワイト・アルバム」 ギアッチョがその言葉を口にした途端、ルイズの部屋は北極の海にでも 投げ込まれたかのように急激に冷え始めた。 ビシィッ! 窓が凍る。 ビシィィッ!壁が凍る。 ビシビシィッ!!絨毯が凍り、 ビキキキキッ!!シーツが凍り始めたところで、 「さ、さささ寒ッ!!?」 ルイズはようやく眼を覚ました。 「ようやくお目覚めかァ?お嬢様」 「なななななッ!何してんのよあんたはァーーーッ!!危うく二度と起きられ なくなるところだったじゃないッ!!」 「別にいいじゃあねーか そうなりゃ二度と早起きしなくて済むんだぜ それによォ これでおめーは『起きなきゃ殺される』って事が理解出来た わけだ 明日からはちゃんと目覚められるんじゃあねえか?ええおい」 ギアッチョの詭弁にもなっていない発言にルイズがブチキレかけた時―― バガンッ! ドアを開けたとは思えないような音を立ててキュルケが部屋に入ってきた。 「何やってるのよあなた達ッ!私の部屋まで凍り始めたわよッ!!」 「このお嬢様がいくら起こしても起きねェもんでよォォ~~ 手っ取り早く 起こす方法を取ったってェわけだ もう解除はしてある 安心しな」 勢いで飛び込んできたもののギアッチョは正直怖い。キュルケは怒りの 矛先をルイズに向けることにした。 「ああそう・・・それにしてもルイズあなた何歳よ?それとも睡眠に何か こだわりでもあるワケ?生死を賭けた状況になるまで起きないなんて そうそう出来ることじゃあないわよねぇ」 「うっ、うるさい!昨日は色々疲れてたのよ!」 昨日の礼を言うどころか罵倒で返してしまった。これだから私は、と ルイズは内心自分が情けなくなる。 「やれやれ、それじゃあ私は部屋に帰るわ。明日はこんなことになる 前に起きてよね」 そう言い残してキュルケは去って行った。 「ギアッチョ!あんたのせいよ!」ルイズはギアッチョをキッと睨む。 「あんたは今日から雑用だからね!まずは私の服を着替えさせてそれから ――、って!どこ行くのよッ!!」 ルイズが気付いた時にはギアッチョは既にどこかへ行ってしまった後だった。 「あのダサ眼鏡・・・どうやら使い魔としての自覚が足りないようね・・・! 私の従者としての立場を教育してやる必要があるわッ!!」 喉元過ぎればなんとやら。ギアッチョの呼び方があなたからあんたに戻って いることといい、どうやらルイズは昨日の恐怖をすっかり忘れ去って いるようだった。 あの後、結局ギアッチョは部屋に戻ってこなかった。ルイズの怒りは 収まらないようで、「せいぜい勝手に歩き回って朝食を食いっぱぐれれば いいんだわ!」と怒りもあらわに一人食堂に向かった。 食堂に入り、適当な場所を探していたルイズだが―― ドグシャアァ!! というおよそ食事をする場所では耳するはずのない音を聴いて振り返り。 そして奴を発見した。 ルイズ言うところのダサ眼鏡は―貴族専用の椅子にどっかりと鎮座し、 テーブルを殴りつけながらワケの分からないことを叫んでいた。 「テーブルマナーってよォォォ~~ イギリス式とフランス式で作法が 違うんだよォォォ~~~ スープの飲み方とかフォークの置き方とか よォーーーッ それって納得いくかァ~~?オイ? オレはぜーんぜん 納得いかねえ・・・ どういう事だッ!どういう事だよッ!クソッ!オレを ナメてんのかッ!一つに統一しろッ!ボケがッ!」 何度も殴られたテーブルは形が歪み始めたが、そんなことおかまいなしに ギアッチョは暴れ続けている。一方ルイズは、口の端を引きつらせたまま 完全に固まっていた。 数秒して我に返ったルイズが採った行動は、とにかくこの場から逃げる ことだった。「あいつが私の使い魔だってことがバレたら・・・!」と思うと ルイズの心臓は凍りつきそうだった。が、1秒後彼女の心臓は脆くも ブチ割れることになる。 「ああ~?ルイズじゃあねーか 遅ェぞご主人様よォォ~~!」 その瞬間食堂にある数十対の目が全てルイズに集まり―彼女は本気で 泣きたくなった。 「何やってんのよあんたはァーーーーーーッ!!!」 ルイズは激怒した。必ず、この横暴無比の使い魔を躾けねばならぬと決意 した。ルイズには裏社会の事がわからぬ。ルイズは、貴族のメイジである。 杖を振り、失敗を重ねて生きてきた。けれども無礼に対しては、人一倍に 敏感であった。 「見なさいよこれッ!テーブルがバキバキにヘコんじゃってるじゃないのよ! ああっ!?しかも貴族用の料理を平らげてる・・・食前の唱和すら始まって ないのに!!」 「ああ?何か悪かったかァ?こっちのルールはまだよく知らないもんでよォォ」 「このバカッ!周りを見なさいよ!誰一人食事をしてないのに待たなきゃ いけないってことがわからないの!?いやそれ以前にあんたの世界じゃ テーブルは殴り壊していいってルールでもあったわけ!?ええ!?」 物凄い剣幕である。しかも涙目。これにはギアッチョもちょっとだけ悪い事を した気分になった。 「そりゃあ悪かったな。ま・・・次からは気をつけるとするぜ」 しかしその余裕の態度が更にルイズの怒りを燃え上がらせる。 「・・・あんた 今から私の部屋を掃除してきなさい!それが終わったら 教室の掃除よ!授業が始まるまでにね!」 「ああ?」 「ご主人様には敬語を使いなさい!私が上!あんたは下よッ!!私の 事はルイズお嬢様と呼びなさい!そして常に私の後ろに控えていることッ! 良いわね!!」 そこまで言うと一瞬ギアッチョの眼が温度をなくしたように見えたが、ルイズ は負けじと睨み返した。 「・・・やれやれ 仕方ねえ・・・ 掃除をさせていただくぜェェ ルイズお嬢様 よォォー」 どうみても敬意はこもってなかったが、 「わ、解ればいいのよ!行きなさい!」 ルイズはとりあえず妥協することにした。なんだかんだでやっぱりギアッチョの 眼は怖かったようである。 前へ 戻る 次へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2473.html
前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 一人で食べる食事というのは味気ないものだ。 だから、そんなときにやってきた食事のお誘いは大歓迎なわけで。 しかも誘ってくれたのが十人中十人が振り向く絶世の美女であれば、もうなにも言うことはないのであった。 「おいしそーだなあ―――!いただきまあ―――す!」 肉汁滴るステーキにかぶりついた康一は、目を輝かせた。 「おいしい!」 キュルケは微笑んだ。 「喜んでいただけてうれしいわ。あなたのために特別に用意したんですもの。」 「へぇー!うれしいなぁ!」 どれもこれも絶品だ! しかし、グラスを手にしたところで康一はキュルケに尋ねた。 「これってワイン・・・ですよね?」 「それがどうかして?」 「いやぁ、ぼくの国ではお酒って大人にならないと飲んじゃいけないものだったんですよ。」 あら・・・。とキュルケは目を丸くした。 「あなたのお国はどちらなの?」 「え!?え、えーっとぉー、ロバアルカリイエ・・・てとこかな。」 康一はとりあえずルイズが言っていたようにすることにした。 「そう。あなた東方の出身なの。だから顔つきもそんなにエキゾチックなのね。」 キュルケはワイングラスを軽く掲げて見せた。 「でも、ここはトリステインなのだから、あなたも気にせずに飲めばいいと思うわ。」 「そ、そうかな?じゃあ、ちょっとだけ・・・」 グラスをちびちびと傾ける。 「あれ、でもなんだかお酒って感じがしないね。結構飲めるかも・・・」 「いいワインは人を選ばないの。お気に召した様で良かったわ。」 ふーん・・・。そういうもんかぁ・・・。ワインをちびちびと舐めながら康一は感心したが、ふと疑問に思った。 「そういえば・・・どうしてぼくを食事に誘ってくれたの?わざわざこんな料理まで用意して・・・」 ヴァリエールとツェルプストーの因縁の話を思い出した。 「ひょっとして、ルイズのことが聞きたいの?でもぼく、まだここに来てから日も浅いし、そんなにすごいことは知らないよ?」 おほほほほ。とキュルケは口に手を当てて笑った。 「あたしはルイズなんて眼中にないの。それにこんな回りくどいことはしないわ。」 キュルケは顔を赤らめた。 「あたしが知りたいのは、あなたのことよ・・・」 「ぼ、ぼくですかぁー?」 キュルケが潤んだ瞳で見つめてくる。康一はなんだかドキドキしてきた。顔が赤くなるのがわかる。 「最初はちょっとした興味だったの。ルイズがあなたみたいな不思議な使い魔を召喚したから。」 キュルケは立ち上がった。 「あなたは小さくて可愛らしいわ。でも、見ているうちに分かったの。あなた、その瞳の奥に、それだけじゃない『何か』を持ってる。」 キュルケはテーブルクロスを指でなぞりながら、ゆっくりと康一のところへ歩いてくる。 「トドメに、あの決闘。ギーシュを倒したあなた、すごくかっこよかったわ。まるでイーヴァルディの勇者のようだった・・・。あの時のあなたの強い瞳を見て、あたしの心は今までにないくらい燃え上がってしまったの。」 康一の肩にそっと手を乗せた。 「恋してるのよ。あたし。あなたに。恋はまったく、突然ね。」 ほっぺたに、スープがついてるわよ? キュルケは康一の耳元で囁くと、康一の頬についた汚れを、小さく舌を出して舐め取った。 「なななななななにを!!」 康一はガタン!と立ち上がり後ずさった。 しかし、足元がおぼつかなかない。 ふらつく康一の手を、キュルケが握った。 「急に立ち上がったら危ないわ。ベッドに座りましょ?」 「う、うん・・・。」 どうしたんだろう。頭がぼうっとする・・・。 康一はふらつきながらも、キュルケに導かれるまま、ベッドに腰掛けた。 キュルケも隣に座って、しかし、康一の手は離さなかった。 暑くなってきたわね。とキュルケはブラウスのボタンをもう一つ外した。 ついそちらに目が行く。 康一君を責めるのは酷である。正常な男であれば目が行かないわけがないのだ。 それでも康一は慌てて目を逸らした。 「からかってるの!?」 すでに顔は真っ赤だ。 「いいえ。あたしは本気よ。あなたが好きなの。あなたのことがもっと知りたいのよ。」 キュルケは、康一の手を握っているのとは別の、もう一方の手で康一の膝頭を軽く弄った。 「う、うわぁ!」 こ、これはなんだかまずいぞ!と康一は思った。 このままではまずいことになる! 「ま、待って!ぼくには恋人がいるんだ!」 「あら、そうなの?でも当然よね、あなたのような可愛いくて頼もしい魅力的な男の人を、女が放っておくわけないもの。」 「い、いやぁ。そういうわけでもないけど・・・」 今まで由花子さん以外に浮いた話などまったくない康一である。 でもね・・・。 キュルケは続けた。 「ここはハルケギニアよ。はるかかなたにあるロバアルカリイエは、あたしたちの恋を邪魔できないわ・・・!愛してるの!コーイチ!」 キュルケは康一の頬を両手で挟んで、情熱的な口づけをした。 ベッドの上に押し倒されると、康一の頭の中で世界がぐるんぐるんと回転した。 押しのけようとしたが、腕に力が入らない。 あたまがぼーっとする。 ごめん由花子さん・・・。ぼくはこのへんてこな世界でお星様になりそうです。 そのとき。バターン!とものすごい音がして、扉が開いた。 「・・・なにをしてるわけ?」 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ 廊下の明かりを背にそこに立っていたのは、白い肌にくっきりと青筋を立て、ドラゴンも逃げ出しそうな怒気をまとった、康一のご主人様だった。 数分後。康一はルイズの部屋で正座をしていた。 髪型を貶されたときの仗助もかくや、という勢いでプッツン来ていたルイズは、キュルケから康一を引っぺがし、そのまま襟首を持って部屋まで引き摺ってきたのだ。 ルイズが康一を見下ろす。まるで、道端に落ちた馬の糞を見るような目である。 康一の顔は未だ真っ赤だ。 部屋に連れ帰ってからもぼーっとした様子を見て、ルイズはようやく康一が酔っ払っていることに気づいた。 「(そっか・・・これが酔っ払うってやつか・・・)」 康一は回らない頭でぼんやりと考えた。 ルイズの手には乗馬用の鞭が握られている。 「・・・で、食事に誘われたわけね。」 「うん。」 「初めてのお酒を飲まされたと。」 「うん。」 「ついでに、ベッドにも誘われたと。」 「うん。」 「お酒のせいで、ろくな抵抗もできずに。」 「うん。」 「わたし、言ったわよね。ツェルプストーなんかにデレデレするなって。」 「うん。」 「デレデレしたら死刑って言ったわよね。」 「うん。・・・・・・え!?そんなこと言ったっけ?」 「言ったのよ。心の中で。」 康一は目をあげた。ルイズの目が本気と書いてマジだったので、康一は言い訳するのをやめた。 ルイズはぷるぷると震えている。 「それなのに・・・!それなのに・・・・!この・・・!スケベ犬がぁー!!!」 バシンバシンと鞭が振り下ろされ、康一は悲鳴をあげた。 「い、痛っ!やめっ・・・!痛い痛い!」 逃げまわる康一を、ルイズは鞭を振り回しながら追い回した。 「(がんばった使い魔に、せっかくご褒美を用意してたのに!一緒のベッドで寝させてあげようと思ってたのに!)」 よりによってキュルケに先を越されてしまうなんて! べ、別にわたしは康一を誘惑しようとしたわけじゃないけど! あの万年発情期のキュルケと違って! ルイズは追走劇の結果、ボロ雑巾のようになった康一を見下ろした。 「もう・・・知らない!」 ルイズは鞭を投げ捨てて、ベッドにもぐりこんだ。 ようやく折檻から開放された康一がふらふらと起き上がった。 ルイズは毛布にもぐりこんで丸くなっている。 「・・・ぼくは、どこで寝ればいいんでしょう。」 凍て付くような視線が帰ってきた。 「犬は床って、相場が決まってるわ。」 今度は毛布すらなかった。 しかたなく康一は、部屋の隅に丸くなった。 寒い。床が自分の体温を奪うのがよく分かる。 ぼくがなにをしたっていうんだ・・・ 康一は赤い顔で溜息をついた。 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔